個人の異質性の特徴として時間選好率が異なる複数の個人から成る経済を想定し、生産の外部性を伴う内生的成長モデルを用いた累進所得税制の税改正の長期的効果に関して、以下の主な研究結果を得た。 (1)個人の労働供給が固定的な場合に、均衡経路が局所的に不決定的になりうる。このとき、2人の個人から成る成長経済においては、生産における労働の外部性が1以上であることが必要だが、3人以上から成る経済においては、労働の外部性が1以下であることが必要である。(2)個人の労働供給が内生的な場合は、異質的な個人の人数、個人の労働供給の弾力性、いずれの要素所得税率の累進度、および労働の外部性の大きさに関わらず、均衡経路は局所的に決定的になる。(3)異質的な個人の人数、個人の労働供給の弾力性および生産における労働の外部性の程度に関わらず、いずれかの要素所得税率の累進度を強くすると、長期的成長率および最も我慢強い個人の資産比率は高くなる。このとき、資本所得税率の累進度を強くすると、労働所得税率の累進度を強くするよりも、長期的成長率および最も我慢強い個人の資産比率を減少させる。さらに、労働の外部性が大きいとその負の成長効果と資産効果は大きくなる。 また、本研究課題と並行して、同様の内生的成長モデルを前提として選好の異なる代表的個人と二国の間に財貿易が存在する開放経済において、国際的貸借の存在によって不決定性が発生することを定性的に示した。この理論的研究では、一方の国の要素所得税(および消費税)の変更が財政の景気安定化機能を通じて、局所的不決定性が発生する条件と各国の長期的成長率に与える影響を論文に纏めた。さらに、社会資本と私的資本の蓄積によって内生的成長が実現される経済において、政府による要素所得税率と社会資本へのメンテナンス支出の組合せの変更が、経済の安定性と長期的成長率に及ぼす理論的な研究を論文に纏めた。
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