本研究では、就労における障害者への合理的配慮について、個票データによる計量分析から、日本の労働市場における合理的配慮の現状を明確にする。「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」(2016年4月施行)により、合理的配慮への取組が従来以上に重視される一方、日本では実証研究の蓄積が極めて乏しいのが現状である。本研究の目的は、(1)合理的配慮の状況が労働者(障害者)の労働市場に与える影響の計測や、(2)合理的配慮の実現へのプラス要因・マイナス要因の解明を、データを用いて行うことである。 研究期間全体を通じて、障害のある労働者に必要な合理的配慮が、就労する職場で提供されているか、提供されていないかが、賃金や賃金率にどのような影響を与えているかを中心に分析した。 令和4年度は、これまでの解析の中で課題となっていた、分析対象とするサンプルの設定について再度検討した。様々な推定式での解析の際、対象サンプルを一般就労に従事する障害者に限定していたが、元々のデータセットには就労していない障害者や福祉的就労に従事する障害者のサンプルも多く含まれていたため、一般就労に従事する障害者に限定すると、サンプルサイズが小さくなるという問題があった。一般に、サンプルサイズが小さいときには分析結果が不安定になりやすくなる。そのため、得られている分析結果の安定性の検証や、一般就労に従事する障害者に限定したこれまでの分析の妥当性の検討、分析対象を一般就労と福祉的就労の両方にすることのメリット・デメリットについての検討などを行った。
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