2019年度は,主に地域の雇用に関する研究を進めた.データとしては,総務省「労働力調査」の地域別の完全失業率および雇用者数の四半期別データを用いた.都道府県別データを用いることも一案であったが,総務省のウェブサイトにて利用に関して留意事項があったため,都道府県別のパネルデータを構築せずに,地域ごとに時系列分析を行うことで対応した.また,雇用・失業率は新しい手法であるHamilton (2017)のフィルタを用いて,循環要因と構造要因に分けた.その上で,金融・財政政策の影響を観察するために,循環要因に対する影響を検証した. 政策の効果を分析するにあたっては,「機動的な財政政策」がなされた期間を1,それ以外を0とするダミー変数を構築した.この期間は大規模な金融緩和政策と財政出動が同時になされた期間に対応する.このため,過去になされた景気刺激策との政策効果の比較を行うことで,(1)財政出動のみのケース,(2)金融緩和と財政出動の双方を組み合わせたケース,とで政策の定量的効果が把握できるようにした.推定の結果,(1)首都圏を含む関東南部では雇用の増加・失業の低下の双方が頑健に観察された,(2)過去の財政出動については雇用増加・失業低下が観察されなかった一方,いわゆる「大胆な金融緩和と機動的な財政政策」がなされた期間はその双方が観察された,という二点にまとめられる.以上の成果は,二つの国際学会にて報告した. この他,前年度にWPにまとめた公共投資が株式市場に与える影響に関する研究について,引き続きセミナー報告を内外のワークショップで行い,分析の改訂を進めた.固定資産税の効果に関する研究については,その解説論文を執筆した.
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