研究実績の概要 |
本年度は、①多次元貧困の社会経済的要因、②貧困削減にむけた公共政策(育児休業、WLB施策・最低賃金)の諸効果、③地域のソーシャル・キャピタルや本人の向社会的行動と主観的貧困の関係などについて、昨年度に引き続き実証分析を進めてきた。また、コロナ禍における働き方の変化や貧困の動態について、個票データと政府統計を用いた考察を進めてきた。 第一に、Wang, Urakawa and Anegawa (2022)では、高等教育への進学・卒業が貧困削減に与える効果の男女差について傾向スコアマッチングの手法をもとに検証を行った。推定結果として、男性は高等教育が貧困削減に与える効果が所得貧困、多次元貧困(生活時間を考慮したIMD貧困)ともに確認されるが、女性は本人所得やIMD貧困の貧困リスク削減の効果が非有意である点を示した。第二に、Fan and Urakawa (2022)では、地域のソーシャル・キャピタルや本人の向社会的行動と主観的貧困との関係を2021年に実施された個票データをもとに分析し、社会参画のレベルが高い人々は一般に主観的貧困率が低い傾向が確認されることを示した。第三に、山本・石井・樋口 (2023)は、コロナ禍前から継続調査されている家計パネルデータをもとに、コロナ禍の状態が人々の生活時間や生活意識をどう変化したかを分析している。第四に、内田・浦川・虞 (2023)では、子育て世帯のWLBの確保に向けた施策として重要とされている男性の育児休業取得の先行要因ならびに企業業績への影響について、日経225企業のパネルデータをもとに検証した。 本研究を通じて実施してきたこれまでの一連の研究成果を踏まえ、専門書として『貧困測定の経済学』を今年度中に刊行予定である。
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