研究期間全体を通じては、政治経済学を「合理的個人(あらゆる情報を駆使して自己利益の最大化だけを行う個人)を仮定して政治という対象を分析する経済学の一分野」にとどめずに、政治学と経済学が協働する異分野融合型の新たな研究領域へと発展させることを目的とし、合理的個人を想定しない実験研究を推進することができた。 最終年度は、(1)人々は(金銭的費用と比べて)機会費用を認識しづらいことを想定した実験、および(2)人々が(自分の利益だけでなく)他者の利益にも関心を持つことを想定した実験について、論文2本が出版、2本が掲載許可、1本が投稿中、1本が執筆中のところまで進めることができた。内容は次のとおりである。 (1)実際の選挙では、投票へ行くことは時間を要するという費用を伴う。これを実験室実験では金銭を失うという形に置き換えて投票ルールと投票率の関係を研究している。そこで、投票に伴う時間的費用(機会費用)は金銭的費用に比べて各人の投票確率をどの程度下げるかを検証したところ、金銭的費用の3分の1であった。時間的費用の効果の小ささは、自分の1票が結果を変える確率はきわめて低いにもかかわらずなぜ人々は投票に行くのかという問い(投票参加のパラドックス)に1つの答えを提供する。 (2)若い世代や将来世代の声を反映させるために、選挙権を持たない子どものぶんまで親に票を与えることが提案されている。その効果を実験室とウェブで検証した。票を追加しても親が必ずしも将来志向の投票をせず、追加の票が与えられない人々の一部が自身の利益を守る方向に投票行動を変えるため、将来志向の投票結果が生まれにくいことが観察された。
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