研究課題/領域番号 |
17K03777
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
小林 克也 法政大学, 経済学部, 教授 (50350210)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | group contest / step-by-step technology / public good / gerrymandering |
研究実績の概要 |
本課題研究は、以前は多数の支持が得られず立候補も困難であった極端な主張をする政治家が、立候補をして選挙で当選するようになっている最近の現実に対し、理論的説明を与えることが目的である。30年度は、政党が選挙における候補者を選ぶ際、どのような党内手続きを経て選挙に臨むのかについて、基礎的な分析を進めた。具体的には、各政党を共通の利害をもったメンバーによって構成される1つのグループと考え、政党間で争われる選挙に勝つためにグループ内で努力を出し合うというgroup contestと呼ばれるモデルについて分析をした。先行研究では、勝った時の利得がグループ内で一番大きい1人だけが努力をして、他のメンバーはそれにフリーライドするという結果が一般的であった。だがこの結果は、特に選挙を考えた際、十分に現実を説明する結果ではない。現実では多数のメンバーが勝つための努力をしている場合がたくさんあるからである。これを踏まえて、グループ内の努力の成果が一定水準に達した時だけ、勝利する確率が上昇する(努力の成果が離散的に積み上がる)モデルを設定した。選挙に限らず、努力がグループ内で一定程度集まったとき、その効果が初めて発揮されることは現実ではよく観察されることである(研究において得られる実験結果などの例)。この設定の下で、グループ内のメンバー全員が努力をするナッシュ均衡が存在するための条件を明らかにした。これは先行研究と異なる結果である。30年度は、これらの結果を論文にまとめ、専門誌に投稿し、査読による改訂要求に応えながら、最終的に掲載決定を得た。この他に、前回の課題研究から引き続き、本課題研究と密接に関連をもつ、最も極端な候補者が勝つための選挙区割りの方法について分析をした論文について、共同研究者と改訂作業を進め、得られていた結果をより一般的な条件でも当てはめられるように拡張する作業を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
29年度は、私が所属する学部の執行部副主任を担当することとなった。その業務のうち、文科省の教職課程再課程認定の要求に応えるための作業が、文科省の基準がとても複雑であったことと文科省からの書類の様式提示が遅れたことが原因で、非常に過重であった。このため、当初予定していた研究が非常に遅れたことは昨年度報告した通りである。30年度は副主任の任を解かれ、研究の遅れを取り戻すべく努力をした。これまでの成果を論文にまとめ、専門誌に投稿した。返された査読の改定要求は、モデルを発展させるためにとても有益なものであった。だが、これらの改定要求は、論文提出時には想定していないものばかりであったために、要求に応えるための作業に思いのほか時間をとられた。30年度は分析して得られた結果を当初の研究計画に沿って発展させる作業を進める予定であったが、改訂作業に時間をとられ、残念ながら予定通りには進められなかった。
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今後の研究の推進方策 |
31年度は、今まで分析したgroup contestの枠組みを応用しながら、当初の研究方針である極端な政策志向を持つ政治家が政党内で候補者として選ばれ、選挙で当選しうるだけの党内支持と票を得る理論分析を進める予定である。だが前項で説明した通り、研究の進捗は遅れている。遅れを取り戻すために、分析に割く時間を最大限確保するつもりである。さらに、こうした努力に加えて、この問題に関心のある他の研究者と意見交換をしながら分析を進めていくことを重視する。その中で、もし共同研究の形にすることが迅速に課題研究を進めるために有用であるのなら、躊躇せず共同研究の形で進めて、早く結果を得て、共同論文の形にまとめることも考慮したい。たとえ共同研究の場合であっても、本課題研究は私の単独研究で申請しているので、科研費の執行については、私が分析をした範囲に限って責任を持って執行するつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題研究で請求した経費の内訳は、研究報告とその他である。その他では、作成した英語論文の英文校閲の経費に充てるものである。30年度では、前項までに説明した論文の改訂作業を繰り返す中、5回の英文校閲の支払いに交付金を充てた。改訂による英文校閲では依頼する業者の割引が受けられたために、支出が予想より抑えられた。また、当初予定していた研究報告のための出張については、進捗状況の項で説明した通り、理論モデルの拡張が予定通りに進められなかったために、旅費を申請することはなかった。以上の理由により、翌年度へ繰り越しが生じることとなった。繰り越された額は、31年度で請求する額と合わせて、研究報告や関連する研究会出席のための旅費と業者に依頼する英文校閲の経費に充てる予定である。そのために、31年度は早く結果が得られるよう、努力を継続する。
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