本課題研究は、多数の支持が得られず立候補も困難であった極端な主張をする政治家が、立候補をして選挙で当選するという近年観察された現象に対し、理論的説明を与えることが目的であった。当初は、本選挙で勝つために政党の党員が本選挙での浮動票の動向を予想しながら、どのような政策ポジションをもつ候補を党内で選ぶのかについての理論モデルの分析を進めた。しかし得られた結果は現実に対し説明力のあるものではなく、モデルに含むべき要素を入れると均衡を求められず、立ち往生した。他の研究者から、もっと基礎的な分析をした方がよいとの助言を得て、課題期間中、以下の基礎分析に集中した。政党はグループの一つと見なせる。グループ間の競争の中で、各グループメンバーの努力の誘因の問題に焦点を当て直した。この文脈はGroup Contestと呼ばれる。これは政党間や民間企業間の競争に幅広く当てはめられるモデルである。単独研究に加え共同研究の機会も活用した。2022年度は2021年にSocial Choice and Welfareに掲載された私を含む共同論文を元に、単独でモデル分析の論文改訂を進めた。グループメンバーの努力の補完性とグループ内の資源配分や役割分担が、メンバーの努力の誘因にどのような影響を与えるのかについての結果をまとめた論文を雑誌に投稿し、現在査読結果を待っている。他の成果は以下である。2019年にグループ内の努力の成果が一定水準に達した時だけ、勝利する確率が上昇する(努力の成果が離散的に積み上がる)モデルでグループ内のメンバー全員が努力をするナッシュ均衡が存在するための条件を明らかにしEconomics of Governanceに掲載され、最も極端な候補者が勝つための選挙区割り(gerrymandering)を分析した共同論文がTheory and Decisionに掲載された。
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