研究課題/領域番号 |
17K03780
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
岸 智子 南山大学, 経済学部, 教授 (30234206)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 社会人教育 / マッチング手法 / 処理群 / 対照群 / パネルデータ / 就業形態 |
研究実績の概要 |
本研究は、社会人の生涯学習が、再就職や就業形態の転換、転職など、キャリア形成に役立っているかどうかを複数の国のパネルデータを用いて明らかにすることを目的としている。この分析は、単純に見えて実はそうではない。社会人教育を受けている人たちと受けていない人の、もともとの属性(年齢、背景、地域、健康状態など)は異なる場合が多く、同じ人物が社会人教育を受けた場合と受けなかった場合との結果を比較することが不可能だからである。このため、本研究ではマッチング手法という分析方法を用いる。これは、ある処理を受けたグループ(処理群)とよく似た属性をもつが、その処理を受けていないグループ(対照群)とをマッチさせて比較し、処理効果を推定するという手法である。この手法は現在では多様化し、Lee(2013)のようにこの方法論について書かれた著書もある。本研究では、この方法を用いて以下のような分析を行う。(1)高卒者のうち、2009年以降専門学校または短大で学んだ人たちから成る処理群と、(よく似た属性をもつが)2009年以降も専門学校または短大で学んでいない人たちから成る対照群との職歴の比較を行う。(2)専門学校または短大を出た人のうち、2009年以降大学で学んだ人たちから成る処理群と、(その人たちによく似た属性をもつが)2009年以降大学に進学しなかった人たちから成る対照群との職歴の比較を行う。(3)複数の国について分析し、国による、結果の違いを明らかにする。 参考文献: Lee, M.J. (2015) Matching, Regression Continuity, Difference and Difference and Beyond, Oxford University Press.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究の第一段階の成果を、すでに論文にまとめている。 平成29年度は、オーストラリアのパネルデータ(The Household, Income and Labour Dynamics in Australia (HILDA) Survey および日本のパネルデータ(Keio Household Panel Survey(KHPS)を用いて、①高卒で20歳以降、専門学校で学んだ場合の、就業への影響②専門学校卒で社会人になってから大学で学んだ場合の、就業への影響をそれぞれ推定した。これらのパネルデータに関する詳細は、下記サイトで説明されている。分析の結果、オーストラリアでは①の場合、専門学校修了者はそうでない人と比べ、新規就業率が高く、また有期雇用から無期雇用への移行率も高いことがわかった。他方、②の場合は、大学で学んだからといって新規就業率や有期雇用から無期雇用への移行率が高いとはいえないことがわかった。日本のデータには、社会人教育を受けたサンプル数が少なく、①②いずれの効果も認められなかった。現在は、この分析の結果に関する論文を執筆中である。なお、平成29年度にはこれに先立ち、就業形態とその転換に学歴がどのような影響を及ぼしているかをオーストラリアと日本とで比較し、論文にまとめ、査読付きの学術誌に投稿した。この論文に関しては、去る平成30年2月に査読の結果を受け取り、全面的に改訂のうえ、平成30年4月に再投稿した。平成30年5月現在、査読の結果を待っている状況である。 パネルデータの情報 HILDA Survey: https://melbourneinstitute.unimelb.edu.au/hilda KHPS: https://www.pdrc.keio.ac.jp/paneldata/datasets/jhpskhps/
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今後の研究の推進方策 |
平成30年4月に再投稿した論文に対するレフェリー・コメントが近く帰ってくると考えられる。それを受けて改訂し、最終的な投稿を行う予定である。それを待って、「7.現在までの進捗状況」で触れたリカレント教育の効果に関する論文を完成させ、学術誌に投稿する予定である。投稿は、平成30年7月をめどにしている。 平成30年中に、オーストラリア以外の国のパネルデータも申請する予定である。現在のところ予定しているのは、EUのSHARE(Survey of Health, Ageing and Retirement in Europe)である。このデータを用いて、社会人教育を受けた人と受けない人の引退年齢や引退に向けたキャリアの変化を比較することを考えている。分析手法としては、平成29年度の研究と同様、マッチング手法を用いる。この結果を平成30年度中に論文としてまとめ、国内外の学会で報告したうえ、平成30年度内に学術誌に投稿する予定である。 パネルデータの情報 SHARE: http://www.share-project.org/
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