研究課題/領域番号 |
17K03780
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
岸 智子 南山大学, 経済学部, 教授 (30234206)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | パネルデータ / 職業教育 / Qualification / 就業状態 / フルタイム雇用 / 差分の差分 |
研究実績の概要 |
2017~2018年度は、オーストラリアのパネルデータである、HILDA(The Household, Income and Labour Dynamics in Australia)Survey(2001-2017年)と日本のパネルデータであるKHPS(Keio Household Panel Survey、2004‐2015年)を利用し、社会人としての職業教育が就業に及ぼす影響について、比較分析を行った。オーストラリアでは、12年の学校教育を終えた人は職業教育または高等教育を受け、それぞれのレベルに応じたQualifications(資格と訳されるが、学歴に近い)を受ける。Qualificationsには10段階があるが、本研究で対象にしたのは、Certificate IIIおよびIV, Diploma, Advanced diplomaという4種類の資格である。日本にはこれらに匹敵する学歴がないため、専門学校・短大卒業に関する変数を利用した。分析対象は調査の初年度において20歳以上で社会人、かつ初年度から回答を続けている人たちに限定した。 過去に取得した資格・学歴が、就業形態の変化にどのような効果を及ぼすかを分析したところ、オーストラリアの資格は新規就業や有期雇用者の無期雇用への転換にプラスの効果を与えているが、日本の専門学校・短大卒は必ずしも就職にプラスではないという結果が出た。 次に、HILDA Surveyを用い、ある一定の期間に資格を一つ取得した人と、そうでない人との就業状態を比較した。この分析には、差分の差分という計量経済学の手法を用い、昨年だけではなく過去15年前まで遡り、過去に取得したことの効果も推定した。その結果、資格の取得が、女性についてはその後の就業、特にフルタイム就業にプラスの効果を及ぼしているが、男性についてはそのようにはいえないことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①まず、職業教育のQualificationを過去に取得したことが就業形態の変化にどのような効果を及ぼすかという分析の結果は、“Labour market transitions in Australia and Japan: A Panel Data Analysis”という論文にまとめ、Australian Journal of Labour Economicsに投稿し、Vol.20., No.3に採択されている。 ②職業教育のQualificationをある一定の期間に取得することの効果を HILDA Surveyで分析し、研究成果を以下の研究会で報告している。1)2018年10月28日、関西労働研究会、2)2019年3月12日、お茶の水女子大基幹研究院 人間科学系のセミナー、3)2019年3月18日、モラル・サイエンス研究会、4)2019年3月28日、メルボルン大学経済研究所のセミナー、5)2019年 4月17日、南山大学経済学部定例研究会。また、2019年7月1日には、サンフランシスコで開催されるWestern Economic Association International の第94回大会で報告の予定である。これまでの研究会および学会で受けたコメントをもとに、2019年4月現在論文を改訂中で、遅くとも8月末には投稿する予定である。 ③他方、日本のパネルデータKHPSを用い、HILDA Surveyに対して行ったのと同じような分析を主なっている。これは、オーストラリアと日本との比較分析をテーマにした、①とは別の論文としてまとめる予定で、10月の関西労働研究会、12月のAsian and Australasian Society of Labour Economics Conference 2019で報告し、年度内に投稿する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後、2本の論文を執筆し投稿する計画である。そのうち1本目に関しては、すでに草稿が出来上がっており、オーストラリアの独特の職業教育訓練と労働市場に関する論文として、2019年7月1日、サンフランシスコで開催されるWestern Economic Association International (WEAI)の第94回大会で報告の予定である。その大会で受けたコメントを基に改訂し、この学会の刊行する学術誌に投稿することを考えている。2本目は、オーストラリアと日本の職業教育訓練場への効果に関する比較分析を対象とするものであり、オーストラリアに関する部分がほぼ完了している。この研究成果は、関西労働研究会および2019年12月にシンガポールで開催される、Asian and Australasian Society of Labour Economics Conference 2019で報告の予定であり、2019年3月までに論文を完成させる予定である。時間的に可能であれば、ドイツなどEU諸国のデータを用いた分析の成果(3本目)の執筆も年内に始めたい。すでにデータのライセンスを取得し、予備的な分析を行っている。
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