研究実績の概要 |
この研究では、日本とオーストラリアについて、企業外での職業教育がその後の就業状況および所得に及ぼす効果を比較した。実証分析に用いたのは、日本側については慶應義塾パネルデータの1-14年次、オーストラリア側については、The Household, Income and Labour Dynamics in Australia(HILDA) Survey の1-17年次である。職業教育にはさまざまな形態があるが、ここでは専門学校・専修学校などへの通学という形をとるものに限定し、①就業、②週35時間以上のフルタイム就業、③失業(職探し中)および④税引き前年間労働所得に及ぼす効果を分析した。職業教育を受ける以前の年次であれば0、受けてからの年次であれば1となるダミー変数を作成し、回答者の年齢階層、既婚・未婚の別、子どもの年齢階層、トレンドなどをコントロールし、両国について、男女別に固定効果推定を行った。その結果、次のようなことが明らかになった。1)日本では、職業教育は男性の就業を促進し、女性の失業を抑制する効果をもっているが、それ以上の効果をもたらしていない。2)オーストラリアでは、職業教育は女性の就業およびフルタイム就業を促進し、失業を抑制しているが、男性の就業・フルタイム就業・失業には影響を及ぼしていない。3)職業教育から税引き前年間労働所得への効果は、両国の男女いずれにも有意に表れていない。 分析結果の頑健性を確かめるため、職業教育以前の年次および職業教育以後の年次を表すダミー変数(職業教育X年前ダミー、職業教育後Y年ダミー)を用いて、上記①~④への効果を推定し直した。その結果、オーストラリアの女性については、職業教育から①②③への効果が確認されたが、日本についてはサンプル数が十分ではなく、結果の頑健性を確認することができなかった。これは今後の課題である。
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