企業の内部労働市場の機能について数多くの理論研究が行われてきた。しかし、それを裏付ける実証研究は近年広がりを見せ成果を出しつつあるものの、データの入手困難性から、なかなか進んでいないのが現実である。こうした現状を打破するため、入手したデータをもとにさまざまな観点から実証分析を行った。 今年度は、三菱商事と三井物産の1941年と1961年の社員名簿(職員録)に記載された情報をもとに、戦前から戦後にかけての商権の維持、継承や後進の指導の観点から、継続して在籍する者の職務配置と企業業績の関係について分析を行った。その結果、三井物産の方が戦後に設立された新会社に戦前から在籍している者が多く、人数だけを見る限り、人的資源の継承の可能性は高いと考えられる。しかし、戦前から在籍していた者の配属先を詳細に調べると、三井物産では、戦前と戦後で異なる商品や業務を担当し、業務の継続性が見られないと思われる者が多く見られた。他方、三菱商事では、戦前から継続して在籍している者は少ないものの、戦前から戦後にかけて、長期にわたり同一もしくは関連する商品や業務に従事している者が多く見られた。商権の維持や継承、後進の指導の観点から考えると、三菱商事の方がそれらが有効となる人的資源管理が行われていた可能性が高く、それが、戦前から戦後にかけて両社間で企業業績(取扱高)が肉薄、逆転した要因の1つである可能性があることを指摘した。
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