本研究会の目的は、インドネシアにおいて地方分権制度が2001年に導入されたことに伴い生じた地方自治体レベルでの最低賃金水準の変化を自然実験的状況とみなして、その雇用などへの影響を探ることであった。この分析のため、まず、1990年代から2010年代にかけての地方自治体別最低賃金情報を収集し、また、製造業企業の個票データからその位置情報を割り出した。次いで、地理的に隣接する地方自治体のうち、2001年以前には同一の最低賃金水準のもとに置かれていた地域に注目し、2001年以降に生じた最低賃金の変化が、隣接する地方自治体間で製造業企業の雇用水準にどのような変化をもたらしたのかを確認した。 最終年度にあたる2022年度は、前年度の成果をベースに分析作業を進めた。2021年度の研究では、ジャカルタ首都圏に含まれる5つの地方自治体での最低賃金の変化を利用して分析し、その推計結果をまとめたが、その推計結果の頑健性を確認すべく、対象を広げるとともに、地方自治体の境界線近辺に観察されたサンプルのみを用いた分析作業を進めた。現時点ではデータ構築作業にとどまっているが、このデータを使うことにより、より厳密な最低賃金の影響評価が可能になると期待される。 最後に、研究期間全体を通じた研究成果をまとめると、インドネシアにおける自然実験的状況を利用した分析からは、最低賃金の引上げが製造業企業での雇用者減をもたらしていたとの推計結果が得られた。ただし、負の影響を報告してきた先行研究同様、その程度は大きくないことも確認された。一方で、この分析結果については、上述したようにジャカルタ首都圏という特殊な環境である可能性を考慮して、さらなる分析の積み重ねが必要である。
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