研究課題/領域番号 |
17K03796
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
永易 淳 東北大学, 経済学研究科, 教授 (30375422)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 貿易財と非貿易財 / 代替性 / 購買力平価 / ミクロデータ |
研究実績の概要 |
日本のミクロデータ「全国消費実態調査」を用い、消費者の財・サービスの同時点間における代替性を分析することにより、購買力平価という誕生から100年を迎えた経済学で不可欠な理論の妥当性を検証した研究である。今年度は実証研究の完成度を高め、研究の方向性をより広義に解釈することにより購買力平価の理論との関連性を明確にした。
経済理論は市場に貿易財のみ存在していることを仮定する場合が多いが、現実の社会では多くの非貿易財が存在することは周知のとおりである。これらの財の代替性が高い場合、貿易・非貿易財の区分の理論的重要性は低減する。しかし、本研究はこの代替性は極めて低いという結果を報告しており、これらの財の区分の重要性を指摘する。また、代替性が低いということは相対価格が消費者行動に影響を与えていなかったことを意味する。
これらの研究結果は、12月7日に神戸大学経済経営研究所で開催された国際セミナーで「Intra-temporal substitution between tradable and nontradable goods: an implication for the Backus-Smith puzzle」というタイトルで報告した。また、グラスゴー大学においてR. MacDonald教授より論文指導を頂いている。改善した研究結果は英語論文として執筆しており、来年度(研究期間最後の年)に世界で広く認知されている学術雑誌に投稿する準備をした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
主な実証部分は終了したので研究はおおむね予定通りに進んでいると考える。ミクロデータは予想以上に整備されていたため、実証研究を行う前に通常必要なアウトライヤーなどの取り扱いは最低限の努力と時間で済んだ。そのため、研究もスムーズに進行し、これまで日本経済学会、日本金融学会、大阪・京都大学マクロワークショップ、神戸大学国際セミナー、Household Data Conference(一橋大学)など多くの研究報告の機会を得ることができた。そこで、早い時期に多くの研究者からコメントを頂き問題点を明確にし、研究の改善に努めることができた。今後は論文としてこれまでの研究をまとめることである。
残念な点として、家計ごとの詳細の居住地情報を得ることができなかったことが挙げられる。データの提供先である総務省統計局に依頼したが使用許可を得ることができなかった。そのため、上記にも記したが、本研究の実証結果を広義に解釈することにより、購買力平価へのインプリケーションを求めるという方針に変更した。しかし、ミクロデータから得た貿易・非貿易財の低代替性という結果は経済学的にも社会的にも意義が高いので、この研究方針の変更は本研究の重要性に大きく影響しないものであると考える。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間最終年となる来年度は、これまで求めた実証結果を論文として完成させることに努める。特に、購買力平価理論と本論文の関連性、そして先行研究との類似・相違点を考慮しながら執筆することを計画している。そのため、直近の関連研究の情報を再度収集し、本研究の重要性を見つめ直す。
本研究の重要な貢献として、日本では貿易財と非貿易財の代替性は極めて低い(ゼロに近い)ことを実証したことが挙げられる。この結果はアメリカなど他の先進国のデータからの結果と類似しているが、世界的に見ても極めて低い数値を報告している。また、本論文では同一時点における代替性を検証しているが、日本のデータを用いて異時点間の代替性が低いという先行研究の実証結果とも整合性がある。経済成長が極めて低い時期が研究対象であることを考慮すると、相対価格が消費者行動に影響を与えなかったという本研究結果は多くの研究者にも受け入れることができると判断する。また、論文では相対価格よりも、家計の家族構成、年齢、所得などが消費の判断材料であるという実証結果は価格に焦点を置く一般の経済学理論が提唱する点と相違する。そして、代替性が低いということは非貿易財の重要性を示唆し、購買力平価が成り立たないことを意味する。以上の結果や議論を、研究計画通り論文として研究結果をまとめ、学術雑誌に投稿することを計画している。
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