今年度は研究期間の最終年度としてこれまでの成果を踏まえて以下の2点を主として進めてきた. 第1点目はSarkar (1995)他の市場モデルに対して,情報伝達を通じた各経済主体の信念の異質性を明示的に導入するという理論研究である.前年度までの成果として,2つの市場制度であるマーケット・メーカー制度と競争売買(オークション)制度の違いに着目し,マーケット・メーカーの自己勘定取引が取引参加者の構成や市場流動性を向上させるという結果を理論論文として完成させた.査読付き論文雑誌に投稿した結果,最終的に採択が決まり現在刊行を待っている状態である(オンライン上で論文掲載済み). 第2点目は,取引頻度の制約に格差がある投資家が混在するとの設定を置く理論研究である.本研究については,先行研究も参考にしながら高頻度取引業者と低頻度取引業者の混在する離散時点モデルを構築して分析を進めた.従来の理論論文では高頻度取引業者の目的関数は1期間最適化問題が殆どだったが,我々のモデルは多期間最適化問題として定式化し,動的計画法によって均衡を導出した.その結果,高頻度取引業者は取引終了の時点(引け)を除いて低頻度取引業者に対して流動性を供給する役割を担っていることが判明した.従来の理論研究では高頻度取引業者に対する社会厚生を含めた分析が十分とは言えず,高頻度取引が正の影響を持つとの理論結果を示したことは学術的価値が高いと言える.当該研究について国際学会他で報告を行い,他の研究者からの意見や助言を得ながら質の向上に努めた.この研究について論文雑誌への採択に向けては次年度以降に持ち越すことになった. 研究期間全体を通じて,金融市場における情報構造,特に投資家間の情報の非対称性が,市場制度とも関連しながら投資家の厚生や市場流動性に大きな影響を与えることを理論的に示すことができた点は学術的に意義深いと言える.
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