研究課題/領域番号 |
17K03802
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
菊池 健太郎 滋賀大学, 経済学部, 准教授 (60738368)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 金利期間構造モデル / 正金利モデル / ブラウン橋過程 / マイナス金利 / 量的緩和政策 |
研究実績の概要 |
日本国債の金利は、近年、短期だけでなく中期の年限でも負の値をとっている。本研究では、このようなイールドカーブを「マイナスイールドカーブ」と呼び、これを横断面と時系列面の双方で高精度に捉える金利期間構造モデルを構築することを目的としている。 最近、日本やイールドカーブの水準・形状が日本と類似している欧州において、量的緩和政策の縮小開始時期に徐々に注目が集まるようになってきている。この点を踏まえ、平成29年度の研究では「市場参加者が想定する量的緩和政策の終了時期」を金利期間構造モデルに明示的に取り込むモデル化に取り組んだ。 モデル化の要諦は以下の2点からなる。1点目は、短期金利を正金利モデル(正値のみをとる金利期間構造モデル)で表現される部分と確率的に変動する下限金利の和とみなした点にある。これにより、金利が負値となることを表現しつつ、先行きの短期金利が負の方向に過度に低下することを回避できるようになった。2点目は、下限金利を市場が想定する量的緩和政策終了時期にゼロとなるピン止めされたブラウン運動(ブラウン橋過程)でモデル化した点である。これにより、下限金利が確率的に変動しながら、量的緩和政策の終了が近づくにつれて負値の水準を縮小し、政策終了とともにゼロとなる現実をモデルに織り込めるようになった。さらに本研究では、上記の短期金利モデルに無裁定条件を課すことで、満期までの年数が任意の割引債の価格(ならびに任意の年限の金利)の解析表現を得ることができた。 以上の研究成果を、2つの国際会議と1つの国内研究集会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
年度当初は、下限金利がドリフトの無いブラウン運動に従う金利期間構造モデルの構築および当該モデルに基づく実証分析を年度内に終了することを想定していた。ただ、量的緩和政策の縮小開始時期に徐々に注目が集まるようになってきていることを考慮し「市場参加者が想定する量的緩和政策が終了時期」を金利期間構造モデルに明示的に取り込む、現実的なモデル化に取り組んだ。その結果、下限金利をブラウン橋過程で表すことによって、現実をより反映するモデル化に成功した。また、以上の結果を国際学会と国内の研究集会で報告することもできた。このように当初想定していない理論面での成果が得られた一方、構築したモデルに基づく実際の国債金利データを用いた実証分析は途上にある。この点を踏まえると、現在までの研究の進捗はやや遅れ気味にあると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
遅れ気味となっている実証分析に取り組む。具体的には、日本国債の価格データからゼロクーポン金利を推定し、これを用いて、平成29年度中に構築した理論モデルのパラメータ推定を行う。パラメータの推定値が得られれば、市場が想定する量的緩和政策までの終了年数の期待値などが算出できる。これらの結果を論文にまとめ論文誌に投稿する。また、本研究の金融政策上の示唆や提案モデルの有効性・応用範囲の広さを対外発信するため、海外学会での発表を行う。
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