研究課題
近年の日欧の国債金利をみると、中長期の年限の金利でも負値を取るイールドカーブが常態化している。本研究ではこのようなイールドカーブを「マイナスイールドカーブ」と名付け、これを適切に捉える金利期間構造モデルを構築した。モデルの最大の特徴は、確率変動する下限金利のモデル化において、非伝統的な金融政策終了までの期間を明示的に組み込んだ点にある。具体的には、マイナス金利が金融市場で初めて観測された日(開始時刻)と非伝統的な金融政策が終了する日(終了時刻)において、下限金利はゼロの値で固定され、同政策が実施されている期間中はブラウン運動に従うとの仮定を置いている。すなわち、下限金利はブラウン橋過程に従うと仮定している。これにより、下限金利が確率的に変動しながら、非伝統的な金融政策の終了が近づくにつれて、負の水準にある金利はそのマイナス幅を徐々に縮めていき、政策終了とともにマイナスイールドカーブから正金利のイールドカーブに復するという現実的な姿を表現できるようになった。研究では、非伝統的金融政策の終了日に対応するブラウン橋過程の終了時刻を確率変数として扱い、割引債価格およびゼロクーポン金利の準解析解を導出した。2019年度は、日本国債のゼロクーポン金利のイールドカーブのデータを用いて、構築したモデルのパラメータ推定を行った。マイナスイールドカーブを示す日本国債のイールドカーブへ良好なフィットを示したほか、推定されたパラメータから非伝統的な金融政策の終了までの期間に関するリスク中立確率下での事後確率分布を計算した。その結果、2015年秋には同政策終了までの予想年数が約7年であったが、2016年2月以降は終了までの予想年数が10年を超える結果となった。この研究ではリスク中立確率下でのモデリングに止まり、実確率測度下でのモデリングは行えていない。この点を補強することは今後の課題としたい。
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CRR Discussion Paper Series, Shiga University
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京都大学数理解析研究所講究録
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