研究課題/領域番号 |
17K03803
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
福田 祐一 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (00243147)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 曖昧さ / 不確実性 |
研究実績の概要 |
曖昧さと不確実性回避が資産市場に与える効果を分析しようとすれば、資産市場における曖昧さと不確実性に関する指標を、それぞれ得る必要がある。先行研究では、株式市場における不確実性に関する指標として、ある一定期間における日次の市場ポートフォリオの超過収益率の分散を加重平均して利用している。また、曖昧さに関する指標には、アナリストの将来時点における予測収益率のアナリスト間でのばらつきを用いている。平成29年度は、この先行研究に基づき、日本の株式市場における不確実性と曖昧さに関するデータ収集を行った。不確実性の指標については、K. Frenchが公開しているデータベースより得た市場ポートフォリオ収益率の日次データを利用し、先行研究と同様の手法で計算した。そして、曖昧さに関する指標については、日本経済研究センターが調査しているアナリストの当該年度の日経平均株価に関する予測値から、予測収益率を求め、先行研究と同様の方法で計算した。また、先行研究を展望したところ、曖昧さに関する指標としては、アナリスト予測値から求められた変数以外に、オプションデータ等から導出される分散リスクプレミアムや主要新聞記事から不確実性に関連した言葉が含まれる記事数の比率に基づき計算される政策不確実性指標などが利用されていることが明らかになった。このため、これらのデータについても、先行研究と同様の手法で計算あるいは収集した。また、株式市場全体に対する不確実性と曖昧さの説明力を分析するために、株式を時価総額と株価純資産倍率等で分割された株式ポートフォリオ収益率に関するデータも、K.Frenchのデータベースや購入した「日本上場株式Fama-French関連データ」等を利用して収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を進めるにあたり重要な作業は、日本の株式市場における不確実性と曖昧さに関するデータの計測と、分析対象となる日本の株式ポートフォリオ収益率のデータ収集である。具体的には、まず、不確実性指標として、一定期間の日次の市場ポートフォリオ超過収益率の分散を加重平均するプログラムや、曖昧さ指標として、将来時点におけるアナリストの予測収益率のばらつきを求めるプログラムを開発し、これらを利用して不確実性と曖昧さに関するデータを作成することである。また、実証ファイナンス分野で導入されつつある曖昧さについては、先行研究で利用されている指標の多くを、日本のデータを用いて作成あるいは収集した上で、今後の実証分析に利用し、説明力の頑強性を確認することや指標間で説明力の比較を行うことも重要である。不確実性に関するデータについては、K. Frenchが公開しているデータベースより得た市場ポートフォリオ収益率を用いて作成しているものの、日本のデータベースである「日本上場株式Fama-French関連データ」から収集した市場ポートフォリオデータでは計算を終えておらず、平成30年度にまず取り組むべき作業である。また、曖昧さに関連するデータについては、平成29年度において、アナリスト予測値を用いたもの以外に、分散リスクプレミアム、政策不確実性指標の3種類のデータ収集、作成を終えている。今後の文献渉猟で新たな指標の開発が明らかになる可能性もあるが、その場合はできる限りデータを収集、作成したい。また、時価総額と株価純資産倍率等で分割された株式ポートフォリオ収益率に関するデータも、収集した。このように実証分析に利用するデータの多くを、平成29年度で収集、作成していることを考えると、本研究はおおむね順調に進展していると考えて良い。
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今後の研究の推進方策 |
今後の最初の作業は、実証分析である。まず、先行研究に倣い、線形モデルにより日本の株式収益率に対して不確実性とアナリスト予測値から計算された曖昧さに関する指標が時系列的に説明力を有するかどうか検証する。時系列分析では、株式収益率と不確実性および曖昧さ指標が有意に関連しているかどうかを検証することは可能であるが、より精緻に資産価格モデルを分析するためには、Fama-MacBethタイプの2段階推定を行う必要がある。そこで、時系列分析を行った後に、平成29年度に収集した時価総額と株価純資産倍率等で分割された複数の株式ポートフォリオ収益率データを用いて、2段階推定の手法を応用し、曖昧さに関するリスクファクターが有意な説明力を持つかどうかについて明らかにしたい。そして、時価総額や株価純資産倍率に関連したリスクファクターとどのように関連しているのかなどについて詳細な分析を行っていきたい。次に、曖昧さの指標を、オプションデータ等から計算された分散リスクプレミアムや主要新聞記事から得られる政策不確実性指標に変更し、アナリスト予測値による曖昧さ指標との説明力比較を行いたい。先行研究では、それぞれの曖昧さに関する指標が独立的に利用されており、3つの曖昧さに関連する指標を同時に分析し、その説明力を比較した研究は少ない。このため、最後の分析では、重要な示唆が得られる可能性が高い。このような作業が、今後の重要な研究方策である。そして、これら実証作業終了後は、英語での論文執筆に取り掛かる予定である。また、それと並行して、国内外の学会や大学、研究所でのセミナーでの報告の可能性も探り、論文に株式市場の専門家の意見を反映させ、より完成度の高いものに仕上げていきたい。そして、最終的には、英文校正を経て、海外雑誌に投稿し、掲載を目指したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究推進のために必要としていたヒューレ―ト・パッカード社製のパソコンが、部品が年度内に調達できないとの理由で、平成29年度の助成金を利用して購入することができなかったことと等により、次年度使用額が生じた。 平成29年度助成金で購入予定であったヒューレ―ト・パッカード社製のパソコンについて、部品が調達できない問題は、既に解消されており、平成30年度中には購入したいと考えている。
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