研究課題/領域番号 |
17K03803
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
福田 祐一 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (00243147)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 曖昧さ / 不確実性 |
研究実績の概要 |
令和2年度、曖昧さを引き起こすイベントとして、日本銀行のETF買い入れ政策を取り上げ、分析を行った。欧米の中央銀行は、金融政策の一環として満期のある債券を購入することはあるものの、満期のないリスク資産である株式を購入することは少ない。満期を迎えれば償還される債券は、市場で再購入しない限り中央銀行の保有額を減らし、縮小的な金融政策へとつなげることが可能である。その一方で、満期のない株式は、縮小的な金融政策を採用した場合、中央銀行が市場で売却する必要があり、株式市場の需給に大きな影響を与える可能性が高い。このように中央銀行による株式購入は、将来の金融政策を制約する可能性があり、金融政策に関する曖昧さを高める可能性がある。また、日本銀行のETF購入方針も一貫しているわけではなく、投資家からすれば、ETF購入政策の株価へのインパクトが予想し難い。このような政策は、政策効果や政策意図の曖昧さを高め、市場全体の曖昧さを増幅している可能性が高い。令和3年度は、令和2年度の昨年度のイベントスタディやクロスセクション分析の結果を踏まえ、ETF買い入れ政策のアナウンスメントの有無をコントロールするなど、頑強性を高める追加分析を行った。その結果、ETF買い入れ政策のアナウンスメントがある場合には、ない場合に比べて、小型株やバリュー株の価格上昇効果が弱められることが明らかにされた。欧米の先行研究では、金融緩和政策が景気状況に株価が敏感に反応するバリュー株価や小型株価に正の効果をもたらすことが観察されることが多く、日本の結果とは異なっている。なぜこのような違いが観察されるのかについては、今後の検討課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度においては、令和2年度より取り組んでいる金融政策に関する曖昧さが株価に与える影響に関する分析について継続し、いくつか新しい推定結果も得られている。具体的には、ETF買い入れ政策のアナウンスメントの有無をコントロールするなどして、イベントスタディ分析に加えて、複数のベンチマークモデルを採用したクロスセクション分析も行うなど、頑強性を高める追加分析を行った。その結果、欧米の先行研究とは異なる分析結果が、頑強に支持されることが明らかになった。今後は、これらの成果を論文としてまとめることが必要とはなるが、延長した研究期間において対応可能であると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の作業は、令和3年度に行った分析結果の考察である。令和3年度の分析では、日本銀行のETF買い入れ政策アナウンスの有無が、バリュー株とグロース株に対して異なった影響を与えていること、小型株と大型株にも異なった影響を与えていること等が明らかになっている。イベントスタディだけではなく、マーケットモデル、Fama-Frech 3ファクターモデルを用いたクロスセクション分析でも同様の結果が得られており、ロバストな結果と言える。まず、なぜそのような結果が得られたのかについて考察していくことが重要な課題となる。そして、これらの考察終了後は、英語での論文執筆に取り掛かる予定である。また、それと並行して、新型コロナウイルス感染症の影響等により対面形式での実施は難しいものの、国内外の学会や大学、研究所でのセミナーでの報告の可能性も探り、論文に株式市場の専門家の意見を反映させ、より完成度の高いものに仕上げていきたい。そして、最終的には、英文校正を経て、海外雑誌に投稿し、掲載を目指したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、海外出張や市場関係者との意見交換が困難となったこと等により、次年度使用額が生じたものの、令和4年度は、新型コロナウイルス感染症の状況を見極めながら、意見交換や出張を行うことで、研究を進めていきたいと考えている。
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