最終年度は、分析手法の拡張に加えて、学会などを通じて、既存研究との関連付けを行うための文献渉猟などを行った。具体的には、これまでのイベントスタディに加えて、クロスセクション分析も行った。クロスセクション分析により、ETF購入政策がもたらす株価への影響について、規模効果やバリュー効果などと関連付けて検証することが可能となる。また、最近の文献では、ETF購入効果を、株価や株価指数に対してだけではなく、リスクプレミアムに対しても精緻に分析し、さらに、購入効果が、株価が下落局面にあるかどうか、不確実性が高まっている状況にあるかなどと関連づけて分析している。その結果、株式市場の状況がETF購入政策のリスクプレミアムへの効果に影響していることが明らかにされている。この結果は、株式市場全体で曖昧さや不確実性が高まっている状況において、日本銀行のETF購入効果が大きくなる可能性を示唆しており、本研究に対しても重要な含意を与えるものである。本研究では、特に後半の研究期間において、海外の中央銀行が行っていない日本銀行によるETF購入政策が、金融政策の曖昧さや不確実性を高める可能性があること、日本銀行の不安定なETF購入方針が、株式市場の曖昧さを拡大している可能性を否定できないこと等から、日本銀行のETF購入政策の株価への影響について分析した。研究期間全体を通じて得られた成果としては、次のことをあげることができる。欧米の先行研究では、金融緩和政策が景気状況に株価が敏感に反応するバリュー株や資金制約に直面している可能性の高い小型株へ正の効果をもたらすことが観察されるもの、日本では、小型株だけではなく大型株に対しても、また、バリュー株だけではなくグロース株に対しても、ETF購入政策が株価押上げ効果を持っていることが明らかにされている。
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