研究実績の概要 |
本研究では,個人の財務意思決定の過程において行動バイアスがどのように財務行動に影響を与えるのか、また、行動バイアスはどのような要因に影響されるのか、について解明することを目的にしている。そのために、大規模データを用いた分析だけでなく、申請者の所属大学の学部生を対象とするサーベイも行った。その結果は次のようにまとめる。 「金融リテラシー調査 2016年」のデータを利用し、有効サンプル12,653人を分析した結果、金融知識だけでなく、金融知識における「自信」も財務行為に影響を与えることが分かった。先行研究と同様に、金融リテラシーの高い人は、株式取引や老後のための貯蓄を行う割合が高い結果が得られた。さらに、金融リテラシーと並べ、それに対する「自信」も重要な要因である。金融リテラシーの高い人の中で、その自信が低い人は、それが高い人に比べ、株式取引や老後のための貯蓄を行う割合が統計的に低いことが分かった。逆に、金融リテラシーの低い人の中で、その自信が高い人は、それが低い人に比べ、株式取引や老後のための貯蓄を行う割合が統計的に高いことが分かった。また、金融リテラシーが高くその自信が低い人と、金融リテラシーが低くその自信が高い人は、株式取引や老後のための貯蓄を行う確率が近い結果から、「金融知識」とそれに対する「自信」は投資と貯蓄行為を起こすうえで代替的な役割を果たしていると言える。 大学生150人を対象に行った実験では、個人の数理能力、金融知識、行動バイアス(損失回避、楽観主義、代表性バイアスなど)を測っている。これらのバイアスは投資・貯蓄活動に関連するもので、高いバイアスは賢明な財務行為を妨げるものと思われる。これらのバイアスは個人の数理能力と金融知識に影響されているかどうか、実証研究を行った。その結果、個人の数理能力も金融知識もこれらのバイアスを抑える可能性を示唆する結果が得られた。
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