本研究は、国際金融における実質為替レートの重要な理論であるバラッサ・サミュエルソン理論を日本及び各国のデータを用いて実証的に検証しようとするものである。実質為替レートの動きを考える上では、バラッサ・サミュエルソン効果が指摘する労働生産性という供給サイドのみならず、需要サイドも重要である。よって、供給サイド、需要サイドの両面に目を向けた多面的な検証が必要である。さらに、実質為替レートの動きを理解するには、為替レート全般についての理解も必要である。
令和元年度は、為替レート全般に対象を広げて研究を行った。具体的には、為替介入の効果の計測と為替制度と財政規律の関係である。前者の為替介入の効果については、これまでにも多くの研究がなされてきた。計量経済学的な視点で見た場合、為替介入が為替レートに与える影響を考える上で克服しなければならないのは、内生性の問題である。よって、先行研究においても操作変数法や同時方程式を用いることによりその対処がなされてきた。しかしながら、計量経済学的には、適切な操作変数が果たして存在するのか、また、同時方程式については、定式化問題という問題が生じてくる。そこで、本研究では、ノンパラメトリックな因果推論の手法を用いることにより上記問題に対処し、為替介入の問題を分析した。その研究結果は、学会において報告を行った。また、後者の為替制度と財政規律の関係についても研究会報告という形で研究報告を行った。さらに、バラッサ・サミュエルソン効果の分析については、World Input-Output Databaseのデータを用いて2000年から2014年のパネルデータを構築して分析を行った。
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