研究課題/領域番号 |
17K03813
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
菅野 正泰 日本大学, 商学部, 教授 (00551061)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 信用リスク / 複雑ネットワーク / 中心性指標 / J-REIT / 企業融資 / シンジケートローン / ストレステスト / 新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) |
研究実績の概要 |
令和元年度は、まず、本邦上場事業全社の2008年-2015年間における金融機関別借入残高データを用いて、ネットワークを介した信用格付推移リスクを分析した論文を国際学会で発表し、その時のコメントを受けて論文の改編を行った。コピュラ関数で資産相関を表現の上、VaRと期待ショートフォールでポートフォリオリスクを計測し、最終的に金融システム全体の信用リスクを計測した論文である。改編後、国際学術誌に投稿した論文は、最終レビューの段階にある。 また、2008年-2017年間に発行された全上場J-REITの発行体である投資法人の信用リスクについて、大口投資家取引ネットワークと融資取引ネットワークの2つを考慮して、信用リスクのネットワークを介した影響度を分析した。J-REITのスポンサーのサポート状況が投資法人の信用リスクを大きく左右すること、スポンサーのデフォルト確率は投資法人のデフォルトの先行指標として有効であること、また、幾つかの中心性指標は、投資法人の資金繰り流動性の代理変数になることを明らかにした。論文は、国内外の学会で発表した上、国際学術誌に投稿し、最終修正を経て受理待ちの段階にある。 更に、グローバルなシンジケートローン市場ネットワークの信用リスク分析の研究を進め、Loan pricing Corporation (LPC)のデータベースによりデータ整備を実施し、分析アプローチの構想を練っていたところ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響等で、一旦当該研究を中断し、急遽、国際社会の要請に応える形でCOVID-19が金融証券市場に及ぼす影響の分析を感染症学とファイナンスの両視点から行い、短期間で論文を一編作成した。 結果、その他の成果も含め、国際学術誌に3編投稿中(何れも最終段階)、国内学術誌に1編採択、著書1冊分担執筆および学会発表4件の成果を挙げた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は、証券の相互保有や金融取引の相互連関性がもたらす信用リスクの分析として、①企業融資を介した信用リスク計測の研究、②J-REITの信用リスク分析の研究を前年度より継続して完成度を高め、何れも著名な国際学術誌のレビュー最終段階にある。 また、③シンジケートローンのネットワーク分析は、データ整備が済み、アプローチ検討段階で中断したものの、論文の方向性は見えており、④新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の金融証券市場に及ぼす影響についての研究を、世界の同僚ファイナンス学者に後押しされ、また、国際社会の要請に応え、まずは、日本版の感染症モデルの開発と株式市場における影響度を限られたデータを使用しつつ分析することができた。申請者は、過去にも感染症モデル(Susceptible-Infectious-Recovered (SIR) モデルを修正した「修正SIRモデル」)を利用して、本邦の銀行システムにおけるデフォルト連鎖の研究を科研費の助成を受けて行っており、短期間で論文を作成できたのは、その経験によるところが大きい。申請者の知る限り、ファイナンスと医療との融合の研究は世界的にも珍しいが、COVID-19は金融証券市場に巨大なストレスを及ぼすパンデミックの一種と理解する(2020年3月11日、世界保健機構(WHO)はCOVID-19をグローバルパンデミックと宣言した)と本研究課題で取り込むべき研究であることがわかる。結果、成果物として、3編の英語論文を作成ないしは改編し、国際学術誌に投稿中の段階にある。 以上より、当初の予定通り研究が進んでいると判断されるため。
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今後の研究の推進方策 |
現在投稿中の論文全ての受理を目指す。また、世界経済および金融証券市場の発展に寄与するため、COVID-19関連の更なる研究を行い、金融証券市場とCOVID-19をリンクするリンク・パラメーターの開発に取り組む。また、シンジケートローン市場の分析および論文作成を再開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加予定の国際学会に出席できなかったことで残額が生じたが、次年度のデータベース購入等に充当する。
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