令和2年度は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が金融証券市場に及ぼす影響度の分析を実施した。感染拡大を示す基本再生産数(R0)は、最初の緊急事態宣言下に大幅に減少した一方、株価はその間回復し、宣言発出が株式市場に好感されたことが実証された。また、陽性率などのCOVID-19パラメーターは、2020年上半期中の企業の主要な信用リスク要因であることが明らかになった。 また、研究期間全体を通じて、金融証券市場ネットワークの相互連関性がもたらす信用リスクの連鎖をネットワーク理論を用いて計量分析した。①本邦株式市場の銀行・保険会社・上場事業会社の3者間持ち合いネットワークにおける信用リスクエクスポージャーの相互連関性の分析、②本邦上場全社間の株式持ち合いネットワーク分析、③本邦上場全社の企業融資ネットワーク経由の信用格付推移リスクの分析、④上場J-REIT投資法人全社の信用リスクのネットワーク分析(大口投資家取引と融資取引)、である。①では、バーゼル規制で融資リスク評価に使われるPD/LGD方式によると、リスクの掛け目による簡易法よりも1.5~5倍の信用リスクの増嵩が判明した。また、投資政策上、事業会社は銀行・保険会社に劣後したリターンしか獲得できず、一方、その平均的リスクは銀行・保険会社の1.67倍に達した。②では、企業のデフォルトにプラスに寄与するネットワーク指標とマイナスに寄与する指標が存在することが判明した。③では、グローバル金融危機直後の状態にストレス負荷した格付推移行列を用いて金融システム全体にストレステストを行うと、企業倒産が多数発生し、ネットワーク構造が格段に粗くなる事象が予測された。④では、J-REITのスポンサーのサポート状況が投資法人の信用リスクを左右し、また、幾つかの中心性指標は投資法人の資金繰り流動性の代理変数になることが明らかになった。
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