研究課題/領域番号 |
17K03814
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
渡邉 修士 日本大学, 経済学部, 教授 (20612542)
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研究分担者 |
宮川 大介 一橋大学, 大学院国際企業戦略研究科, 准教授 (00734667)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 自己・交差弾力性 / イールドカーブ / 金利裁定 / 金融政策 / 量的緩和政策 |
研究実績の概要 |
日本国債の発行残高は890兆円に達しており,その需給によって決定される利回りは日本経済に大きな影響を与える.しかし,これまで長期金利の決定メカニズムに関する分析は殆ど行われていない.2017年度は2段階最小二乗法(2SLS)により2・5・10・20年債それぞれについて需給関数を推計した. その結果,次のような事実が明らかになった.(1)供給関数は非弾力的.(2) 2・5年債需要の利回りに対する自己弾力性は大きく,特に2年債のそれは2013年の日銀による量的質的緩和政策導入以降大きく上昇した.(3)10・20年債の自己弾力性は小さく,外生的ショックは大きな利回り変動を引き起こす. 債券利回りの特徴は,隣接する年限間で金利裁定が働くことによって滑らかなイールドカーブが形成されることである.研究によって,自己・交差弾力性の果たす役割の解明が進展した.即ち,(4)自己弾力性が小さく交差弾力性の負値が大きければ強力な金利裁定が働くが,(5)中短期債では裁定はあまり働かず,(6)中短期債と長期債の間では殆ど働かないなど年限間の金利裁定機能は概して弱い. こうした弾力性の特徴は金融政策の有効性に大きな影響を与える.(7)政策金利引き上げは中短期債投資家の金利リスクに対する懸念を刺激し利回りを引き上げるが,その影響は長期債には波及しにくい.他方,(8)量的緩和は自己弾力性の低い長期債では大きな利回り低下を引き起こすが,中短期債では僅かな低下に止まる.(9)こうした弾力性を考慮することによって,最適な量的緩和政策を策定することが出来る.このように,需給関数を推計することによって得られた弾力性の特性を解明することによって,金融政策の有効性を評価出来るようになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は概ね順調に進捗している.(1)2SLSによる推計では,日銀による国債買入額を外生変数として取り込むことで良好な推計結果を得た.(2)推計の過程で,弾力性が時期によって大きく変化することが分かり,弾力性の構造変化も考慮した.(3)自己・交差弾力性の組み合わせによる金利裁定の効き方の違いも明らかにした.(4)金融政策の効果を弾力性に関連付けることにより,その問題点を明らかにした.これまでの分析結果をまとめ,2018年9月の日本経済学会秋季大会報告に投稿した.
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今後の研究の推進方策 |
国債需給関数の推計の最大の成果は,イールドカーブ形成における弾力性の役割を明らかにしたことであった.弾力性については,(1)中短期債では自己弾力性が大きく,長期債では小さいという基本特性がある.これは年限毎に投資家の金利リスクに対するスタンスが異なることを反映したものと考えられる.(2)交差弾力性は全般に年限間の代替性が低いことを示している.これは分析対象期間(2001-16年)が低金利であることに起因すると考えられる.弾力性はその時々の金融・投資環境によって変化するが,弾力性の変化の背後にある要因を解明することは興味深い課題である. 今後の研究の方向の第1は,各年限の弾力性と投資家行動の関連を明らかにすることであり,第2はより長期の需給関数を推計することにより,金利水準と弾力性の関係を明らかにすることである.併せて,1990年代の金融政策のイールドカーブへの影響も明らかにしたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は論文作成までには至らず,学会発表や他大学等での発表する機会が少なかった.今年度は日本経済学会秋季大会での発表が決まっており,国内外で発表を進めると共に,有力ジャーナルへの投稿の準備を進める計画である.
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