2013年の日銀の量的質的緩和(QQE)は,それまで銀行や保険会社が主要な投資家であった国債市場の需給に大きな影響を与えるものとなった.世界的に,量的緩和の金利への影響について分析がなされているが, 本研究では,日本国債の発行市場における需要と供給に着目して,日銀の量的緩和による国債買入のイールドカーブへの影響について計量分析を行った. 具体的には,2・5・10・20年という4つの年限の国債について需要関数と供給関数をモデル化し,利回りと発行額を用いて同時方程式を推計した.既存研究の多くは需要側に着目した分析が多いが,本研究では供給側の日本政府の国債管理政策についても詳細な分析を行った.これは,国債残高の対GDP比が先進国で最も高い日本の国債需給における政府の供給行動を明らかにするためである. 推計された需要関数では,特定期間選好仮説(preferred habitat)が支持される一方,年限間の金利裁定行動は殆ど見られなかった.一方で,供給関数は,政府が短期的なコスト抑制を図るだけでなく,デュレーションの長期化を通して長期的なコスト抑制,資金繰り安定を図るなど積極的な国債管理を行っていることが明らかになった. 推計結果を基に,国債の需給の均衡条件を解き,日銀の国債買入のイールドカーブへの影響を計測すると,全ての年限で最大0.2%程度と極めて限定的なものに止まることが分かり,これは政府の国債管理政策によるものであることが分かった.
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