2019年度は、先ずは前年度からの継続研究である主観確率分布(subjective probability distribution)の復元に関する実証分析に取り組んだ。米国のオプション取引所であるCBOE(Chicago Board Option Exchange)からS&P500インデックスのオプションのヒストリカル・データを購入し、そこから推定される2007年1月から2019年5月までのS&P500インデックスの日次の主観確率分布および主観的な株式リスク・プレミアム(subjective equity risk premium)、主観的なバリアンス・リスク・プレミアム(subjective variance risk premium)を計測した。その結果、主観確率分布は実現リターンを正確に予測することはできない一方で、主観的な株式リスク・プレミアムは資産価格理論が示唆する結果に概ね一致することがわかった。また、主観的なバリアンス・リスク・プレミアムは事後的なバリアンス・リスク・プレミアムと同じ統計的性質を持つことが示された。これらの研究成果をまとめた論文は現在、海外論文誌に投稿中である。 次に、前年度からの継続研究である2本の論文(『投資家の主観確率バイアスと倒産リスクの高い株式リターンに関する研究』と『レヴィ過程のモンテカルロ・シミュレーションにおける制御変量法の研究(東京大学大学院の白谷健一郎准教授及び大学院生との共同研究)』)が査読者の指摘に対する対応・修正を経て、海外論文誌に受理・掲載された。 その他の研究としては、ブラック・ショールズ・モデルを確率的時間変更によって拡張した株価変動モデルの一般的な性質をまとめ、シミュレーションにより視覚的にモデルの差異を説明したサーベイ論文を執筆し、法政大学経営学部紀要『経営志林』で発表した。
|