研究課題/領域番号 |
17K03830
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
馬場 哲 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (40192710)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 都市計画 / 地域計画 / 計画思想 / 郊外化 / 都市計画法 |
研究実績の概要 |
ドイツとの関係・比較を念頭に置きながら、20世紀前半のイギリスにおける都市計画から地域計画への発展の実態と社会経済的背景、およびその思想的背景を明らかにするために、①イギリス最初の都市計画立法である1909年住宅・都市計画等法、②複数の地方自治体による合同都市計画委員会の設置を可能として事実上地域計画への道を開いた1919年住宅・都市計画等法、および③1920年後半の市街地の拡大に伴う農村の土地利用や開発に対する関心の高まりを背景に成立した1932年都市・農村計画法の制定過程・内容を、これらの立法に基づき策定された、中部サリー地域計画スキーム、北部ノーサンプトンシャー地域計画スキームをはじめとするいくつかの都市・地域計画の事例と付き合わせながら検討した。また、これらの計画スキーム作成に関わり、イギリス都市計画協会初代会長でもあったトマス・アダムズの活動と思想に注目した。 資料的には、国内では、東京大学、京都大学、東京芸術大学などの図書館に所蔵されている文献・資料を収集した。国外では、2017年8月と2018年2月にイギリスに渡航し、国立文書館(The National Archives)に所蔵されている地方行政庁(Local Government Board) および保健省(Ministry of Health)関係の未公刊行政文書を、大英図書館(British Library)に所蔵されている同時代文献・公刊資料を閲覧・収集した。 研究成果の発表としては、2017年10月に政治経済学・経済史学会秋季学術大会で「イギリス都市計画運動と1909年住宅・都市計画等法」という自由論題報告を行い、その前半部分を「イギリス都市計画運動の展開(1906~1907年):1909年住宅・都市計画等法成立前史」として、東京大学『経済学論集』に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
20世紀前半のイギリスにおける都市計画から地域計画への発展の実態と社会経済的背景およびその思想的背景を明らかにするうえで、その起点となる1909年住宅・都市計画等法の制定過程や特質の解明は重要である。しかし、制定過程に関する行政文書および法律の内容をめぐる意見の対立や修正の過程を記録する議会文書は、同法がはじめて上程された1908年に異論が多く出て審議未了となり、1909年に再上程されたこともありきわめて膨大であり、それを一定の実証密度を備えた論文にまとめるには予想以上の時間が必要であることが分かった。さらに同時期に進行した自由党社会改革、財政改革との関連もあり、こうした問題に踏み込むとさらに時間を取られることが予想された。そのため、学会報告では問題全体の概略を示したが、成果の公刊に際してはまず前半部分をまとめることにした。ただし、この作業と並行して1909年法から1932年法に至る立法の展開過程と都市計画・地域計画の実態の関連について、細部よりも基本的傾向・特徴の摘出に重点を置いた論文および19世紀以降の英独を中心とする都市=農村関係の変化とその特質に関わる論文も準備中である。また、ドイツとの比較の視点は常に意識している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度には、イギリスについて進めている研究との関係や同時代的比較を念頭に置きながら、まず20世紀前半のドイツにおける都市計画から地域計画への発展の実態と社会経済的背景およびその思想的背景を明らかにすることを課題とする。具体的には、東京大学および国内の図書館・文書館に所蔵されている文献・資料を収集し分析することが求められる。しかし、完全ではないので、ドイツの研究機関・文書館での収集作業が必要不可欠である。 ドイツにおける都市計画・地域計画史の対象としては、フランクフルト周辺のライン=マイン地域がまず挙げられるが、ルール地域など他の地域を取り上げることも考えられる。2018年8月にドイツに渡航し、フランクフルト都市史研究所(Institut fur Stadtgeschichte Frankfurt am Main)などの文書館・図書館が所蔵する資料を、調査する予定である。また、その際レーゲンスブルク大学のRainer Liedtke教授をはじめとするドイツの都市史研究者とテーマについて意見交換をすることも予定している。
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