本研究の目的は、世界恐慌期ドイツにおける失業者救済体制の変容とその帰結を都市ガバナンスの視角から考察し、危機下における都市社会の歴史的実態を解明することにある。分析視角の都市ガバナンスとは、ライヒ・都市自治体の政府部門、民間企業、ボランタリー組織の間の相互関係を通じて構築される都市秩序と定義する。この研究を通じて、国家だけではなく、都市自治体や民間組織などの多様な自立的組織によって構成される「福祉社会」の重層性を「都市ガバナンス」の視点から明らかにし、「長い20世紀」の歴史を把握する上での都市史研究の意義を問いかけることができよう。 最終年度にあたる2019年度はまず、前年度に『社会経済史学』に投稿した論文をレフェリーの指摘に沿って仕上げた。その成果をふまえつつ、8月にハンブルク国立図書館、ハンブルク州立公文書館、ハンブルク現代史研究所において、世界恐慌期のライヒ失業保険の制度改編案としてのライヒ失業扶助構想に関するライヒ・ドイツ都市会議・ハンブルクの史料を収集した。史料調査の成果をもとに、10月に東北大学で開催予定であった2019年度政治経済学・経済史学会秋季学術大会自由論題報告「ライヒ失業保険の『破綻』とその帰結―失業者救済をめぐるライヒと都市の相克を中心に―」の準備を進めたが、台風19号の影響により学会は2020年1月に延期された。この報告原稿に対して、セッションで得られたコメントをもとに加筆修正を施し、『歴史と経済』に論説として投稿するとともに、これまで収集した史料の再精査をもとに研究の最終的な取りまとめを行った。
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