研究課題/領域番号 |
17K03837
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
ばん澤 歩 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (90238238)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ドイツ史 / 経済史 / 鉄道史 / 経営史 / 国際比較 |
研究実績の概要 |
本年は研究観察の主要対象であるドイツ語圏鉄道業における技術組織に関連する制度・組織について集中的に観察をおこない、研究書(論文集)の一章としての英文論文一本、ならびに書籍(日本語単著)1冊を得た。以下その概要を述べる。 論文“A Comparison of Railway Nationalization between Two Empires: Germany and Japan”は、The Development of Railway Technology in East Asia in Comparative Perspective(2017)の第5章として発表された。本書は日本・東アジア鉄道史研究者が中心に日本とその影響をうけた東アジア諸地域の鉄道技術の発達について論じたものであるが、当論文では日本鉄道業の比較対象として19世紀ドイツ語圏における鉄道業を選び、「国有化」経緯の相違を剔出することで、比較経済史研究の基盤となるべき知見を示した。また、著書『鉄道人とナチス -ドイツ国鉄総裁ユリウス・ドルプミュラー』は19世紀末の鉄道技師であり20世紀前半の鉄道行政家であった表記人物の評伝である。蓄積の分厚いナチス・ドイツ史研究に、鉄道史の観点から組織論的分析を加えたものとできる。本書の企業者史的部分については、別途学会報告をおこなっている。 これらはドイツ鉄道史研究において、あらためて国際比較の視点を導入した実証的研究の可能性を示し得たものと考える。これらの著作を得るにあたっては既に収集した文献・史料にくわえ、2017年9月にドイツ連邦公文書館(ドイツ・ベルリン市)において資料調査をおこない、主に20世紀ドイツ・ライヒスバーンに関する公文書を調査・収集した。 以上の業績に付随して企業者の経済史・経営史的位置づけに関する学会の共通論題をコーディネートし、基調報告をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上掲論文は制度の選択に関して日独比較を行い、それを国際的な出版社からの発行物に掲載する形で発表したものである。申請者は欧文によるオリジナルな成果発表の重要性を認識しており、それを目指す今後の研究活動において、我が国ならびに東アジアの経験との比較という視座を得たことに意義があると考える。 また、上掲評伝の公刊によって、今年度より課題としているドイツ語圏鉄道業における技術選択に関して、その主体となる制度・組織への観察によって評価するために新たな視点を得ている。すなわち、これまで主要な観察対象としてきたプロイセン国鉄との比較対象として、同時代ドイツ語圏の他の国鉄(邦有鉄道)について実証的な観察をおこなう必要が明らかになった。また、観察期間を本格的に20世紀前半ないしそれ以降に延長し、ヴァイマール共和国期・ナチス・ドイツ期(さらに可能であれば占領期、戦後東西分断時代)における鉄道業組織とそれによる技術選択(開発)について実証的な分析をおこなう計画の基盤を作り得た。 以上のように平成29年度においては、30年度以降のより実証的に密度の高い調査とそれに基づくさらにインパクトの大きい形での実績公開につながる研究態勢を構築し得たと考えられるため。当初計画通りに進展していると言える側面も大きい。 しかしながら、主にドルプミュラー評伝においては広範な問題を取り扱ったため、個々の論点については問題探求の萌芽を得たに過ぎない点もみられ、これらは今後実証的に詰めた観察を続けていく必要が、さらに継続的に研究成果を公表していく観点からは、小さくないと考えられる。「おおむね順調に進展している」とした所以である。
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今後の研究の推進方策 |
申請者はドイツ語圏各地邦有鉄道の経営に関して、数量的実証分析の手法による相対的な観察をはじめているが、今後はこれらをより実証史的分析として発展させていくべきだと考えている。すなわち、これまでは各地邦有鉄道がプロイセン国鉄を軸に統合する(あるいはそれに拒絶的な反応を示す)経緯に着目していたため、史料的には「中央」に擬せられるプロイセン王国およびライヒ関係公文書に依存していたところ、研究成果から、個々の領邦鉄道(邦有国鉄)の組織・経営について実証的な観察・分析をおこなう必要をあらためて認識するにいたった。 したがって今後の研究において、史料収集・観察の対象としては、プロイセンとの競合関係意識をもち。ライヒスバーンにおいても特殊な地位を保ったバイエルン国鉄を取り扱うことは避けられない。このため、バイエルン州公文書館において20世紀前半(第一次大戦前・後)の未公刊史料を観察する資史料調査が研究活動の軸となる。具体的には年1-2回のバイエルン州ミュンヘン市訪問による同州公文書館における調査をおこない、あわせてベルリン市における連邦公文書館での調査を並行しておこなう。 また本研究は日本の経験をも比較史的視野に入れるため、同時期の日本の鉄道関係者がドイツの鉄道業の組織的動向(ならびに戦時期における他国鉄道の接収などの行為)をどのように見たかを追い、またその判断を今日的視点から評価するという形で、比較経済史研究としての貢献を試みている。このため、20世紀前半の日本鉄道業内で作成された資料を収集する必要がある。このため、引き続き日本鉄道史研究者ならびに東アジア諸国鉄道史研究者との協働の機会をもつ。 研究成果の公開は欧文による報告、ディスカッション・ペーパー作成をへて、学会誌への投稿を準備する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していた資料について、ドイツ連邦公文書館が試験的に資料の写真撮影を利用者に許可する方針となったため、必要資料の相当部分をデータとして購入する必要がなくなった。このため、物品費として予定していた金額を実際の使用額が下回った。一方、旅費等については計画をほぼ達成したため、次年度使用額として利用すべき金額が生じた。 研究の進展により、当初予定していなかったドイツ連邦共和国内における都市間の長距離移動の費用が必要となったため、次年度使用額分は旅費の一部としてこれらに充当したいと計画している。
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