最終年度においては、デジタル化した史料の整理と研究成果の公開を主に行った。スタッフォードシャーにおけるデータに加えて、ベッドフォードシャーにおけるRegister of Prisoners in the County Gaol and House of Correctionについて、データの整理と分析を進め、5月に行われた社会経済史学会第88回大会において報告した。また、そこでのコメントを踏まえて、11月にケンブリッジ大学におけるセミナーでも報告を行った。 全体として、読みの能力の獲得については、産業革命期を通じて獲得可能性の向上が見られるが、書きの能力の獲得については同時期を通じてむしろ状況は悪化したという結果を得た。また、一度獲得した能力がその後向上するかどうかは、この時期を通じて低下したと考えられる。 スタッフォードシャーとベッドフォードシャーの比較からは、読みの能力に関してはスタッフォードシャーの男性は能力獲得の可能性が高く、ベッドフォードシャーでは女性のほうがその可能性が高いことがわかる。また、読みの能力に関して、最低限の読み書きができる場合、スタッフォードシャーでは書きの能力が向上していき、ベッドフォードシャーの女性は読みの能力を向上させる可能性が高いことがわかった。 スタッフォードシャーは、炭鉱地帯や金属加工業が集中するウォルヴァハンプトン、製陶業の中心地であるストークオントレントを持つ工業州で、人口増加も人口流入による社会増の割合が高かったのに対し、ベッドフォードシャーは男性の過半が第一次産業に従事する農業州で人口増加もほとんどが自然増であった。他方で、ベッドフォードシャーは女性の有業率が高く、麦わら帽子製造や、レース編みの家内工業に従事していた。こうした社会経済的背景と識字能力の獲得・向上の態様との関係を整理した投稿論文を準備している。
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