研究課題/領域番号 |
17K03840
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
橋野 知子 神戸大学, 経済学研究科, 教授 (30305411)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 比較産地発展論 / 日本経済史 / 産地 / 産業集積 |
研究実績の概要 |
2019年度は、特に①比較産地論のためのベース作り、②西陣産地の歴史的な発展に関する本格的な分析ならびにリヨンから西陣への技術移転の比較史的考察、ならびに③工場別のデータ系列の整理について作業を進めた。 ①については、これまでの研究(Hashino 2016 'Contrasting development paths of silk-weaving districts in modern Japan' ならびに 橋野 2019「比較産地発展論序説:西陣から桐生へ、さらに福井へ」)にさらにデータや資料から得られた知見を加え、再度分析を進め研究報告をした(2019年7月・東京大学 経済史研究会、8月小樽商科大学 SWET、9月アジア成長研究所、10月プレトリア大学日本研究センター)。 ②の西陣については、西陣の長期的な数量データ系列の整備を進めるとともに、アネクドータルな資料も加えることによって、論考'From Lyon to Kyoto: Modernization of traditional silk-weaving district in Japan, 1887-1929'作成のための準備をした。リヨン第二大学のPierre Vernus氏のアドバイスを受け、仏語文献・資料についてのアクセスを得ることができ、2020年2月には同大学で上記の内容について研究報告をした。なお、本報告については2021年度始めにDPとし、いくつかの研究会で報告予定である。 ③の『工場通覧』に記載されている工場別データ系列の整備については、京都府のデータの入力、クリーニングが終了し、まだ荒い段階ではあるが、②の分析にも一部使うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2017-18年度に研究科内での業務のために、資料収集・出張なども含めて作業が停滞してしまったが、2019年度はサバティカルだったことにより、研究が比較的スムーズに進み遅れを取り戻しつつある。 比較産地発展論構築を目標とする本研究において、三産地の歴史的発展を比較するための指標とそのための資料に関しては、大方集められたと思われる。特に昨年度は、西陣、桐生、福井という技術の流れについても、発端のリヨンから観察するという視点を得ることができ、幕末・開港以降の西洋からの技術移転という大きなストーリーに本研究を位置づける意義を再認識することができた。 福井については、Hashino and Otsuka 'The rise and fall of industrialization and changing labor intensity: The case of export-oriented silk weaving industry in modern Japan'が2019年度内にAustralian Economic History Reviewに掲載された。時間はかかったが、投稿のプロセスで大変有益なコメントを受けたため、数量的・質的にバランスの取れた分析となり、西陣の研究を進める上で大きな指針を得た。 西陣については、2月にリヨン第二大学で報告した際にでた疑問点を明らかにすべく、帰国後再度現地調査・インタビューの上、2019年度内にディスカッション・パーパーを書き上げる予定であった。しかしながら、3月以降外出がままならなくなったため、今後の課題となっている。 桐生については、本研究を開始する前にEconomic History Review, Busines History Reviewに掲載された論考を、本研究のあらたな枠組みにもとづき再構築する必要が生じている。
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今後の研究の推進方策 |
現地調査・インタビューによって、資料からは分からない点を明らかにする点については、現時点で積極的に進めることは、学内の行動基準の観点から難しいのが現状である。 しかし、収集・整理した資料をもとに分析を進めることは、ある程度可能である。第1に、西陣については、ディスカッション・ペーパーを完成させ、Zoom等を利用した研究会で報告し、批判を仰ぎたい。そのことをもとに、論考のリバイズを重ね、今年度の前半に国際的な学術雑誌に投稿することを目指す。 桐生については、EHRやBHR掲載済みの論考について、再度基本データの見直しから開始し、比較産地発展論の枠組みで不足している点を明らかにする。第一は、福井、西陣の分析の際に用いたデータ系列と同じような、長期的な産地構造の変化を表す図を作ることが可能かどうか検討する。第二は、桐生を分析対象として最近出版された日本語の書籍・論文をサーベイし、本研究に生かしたい。 さらに、三産地の比較という観点を比較産地発展論へと導くべく、特に昨年度進めた'Modernization of the Tradition: The case of three silk-weaving districts in Japan, 1875-1930'を各産地の分析結果、報告で得たコメントや批判を踏まえて、全体の構成を再調整し論文化する。 なお、本報告の成果については、2021年度の国際経済史学会のセッション Silk : trades, production and skills in a Eurasian perspective from the Seventieth to the mid Twentieth century (リヨン第二大学、Pierre Vernus氏のオーガナイズ)で報告することが決定しており、2020年度はその準備のために連携を進める(2020年5月にプレ・コンファレンスの予定だったが、2021年1月に延期された)。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017-18年度における支出が学内業務のため大幅に減り、2018年度には、海外出張・学会報告をキャンセルせざるを得なかったため、未使用額が増えた。2019年度には、短期でリヨン第二大学に行くことを予定していたが、学内からの派遣で1ヶ月の滞在が許されたため(神戸大学ダイバーシティ事業・国際人事交流プログラム)、研究費に余裕が生じたた。 よって、2020年度には、①西陣に関する分析ならびに、比較産地発展論の構築に関する論文作成、②国際経済史学会のセッションの準備を中心に、研究費の支出を考えている。すなわち、①については調査、出張報告、資料整理謝金、論文の英文校閲、②については国際比較の分析となるため、①の内容に加えて必要な書籍の購入も含まれる。
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備考 |
2019年度神戸大学ダイバーシティ事業 国際人事交流プログラムで派遣されたが、Pierre Vernus氏らとの国際共同研究は、本研究の成果が含まれ(2020年、リヨン第二大学で研究報告)、2021年度にパリで開催される国際経済史学会でセッションとして報告が決まっている。
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