研究課題/領域番号 |
17K03843
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
森 良次 広島大学, 社会科学研究科, 教授 (10333999)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 労働集約型産業発展 / ドイツ経済史 |
研究実績の概要 |
本研究は、ドイツ経済史上、工場制化の度合いが低く、家内工業や手工業など中小の産業経営が支配的な産業を労働集約型産業と捉え、その動態を世界市場とそこにおける国際的競争関係のなかに位置づけ、評価しようとするものである。2017年度は、労働集約型産業の一事例として玩具産業を取り上げ、とりわけ家内工業経営を基礎に発展を遂げたエルツ山地玩具産業の発展過程を検討した。その結果、次の点が明らかとなった。 ①世界の主要玩具産業国の工場労働者の賃金水準を比較すると、ドイツはアメリカはもとよりイギリスに比べても低賃金国であり(第一次大戦前後期)、このことが資本集約型の発展を遂げたアメリカおよびイギリス玩具産業と、労働集約型のドイツ玩具産業との発展パターンの相違を規定したことは否めない。 ②19世紀末以降、協約賃金の普及(賃金上昇)や主要貿易相手国の関税率の上昇などを背景に、ドイツ(特にニュルンベルク)でも工場制化がすすむが、その場合も工場ではあっても資本装備率がアメリカに比べ低く、また大量の家内労働者を工場外業部として抱える、相対的に労働集約度の高い大工場がドイツの玩具産業の発展を牽引した。 ③他方、エルツ山地では、山村の余剰労働力を吸収するかたちで家内工業が普及し、低賃金労働に立脚して素朴な木製民芸玩具の生産が行われていたが、19世紀末以降は玩具のミニチュア化・クリスマス用品(装飾品)への傾斜を通じて高質品化がすすみ、それを担保する技能養成の制度化も推進された。 ④ドイツ玩具産業では、19世紀末以降は工場制部門でも家内工業部門でも、交易条件の悪化やアメリカなどとの国際的競争関係に規定され、高質品化の方向(労働集約的かつ技能集約的な産業発展)が目的意識的に追求されるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究成果を予定通り論文にまとめ、公表しているため。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度と同じく玩具産業を事例に、国際比較上は労働集約型と評価できるドイツの工場制部門の生産体制と世界市場における国際競争関係の実相を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度は、ドイツでの史料調査を実施することができず、史料の取り寄せや国内図書館資料調査により研究をすすめた。このため旅費の支出が当初の計画を下回った。 2018年度は、ドイツでの史料調査の他、研究成果発表のための出張を予定しており、「次年度使用額」はこれら旅費の一部にあてる計画である。
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