研究課題/領域番号 |
17K03843
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
森 良次 広島大学, 社会科学研究科, 教授 (10333999)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 玩具産業 |
研究実績の概要 |
本研究は、工場制化の度合いが低く、家内工業や手工業など中小経営が支配的な産業をドイツにおける労働集約型産業と捉え、その動態を世界市場とそこにおける国際競争関係のなかに位置づけ、評価しようとするものである。2019年度は、金属玩具産業に比べ工場制化の度合いが低い木製玩具産業を取り上げ、工場制化に成功した代表的玩具企業の事例検討を中心に研究を行った。その結果次の点が明らかとなった。 ①有力木製玩具工場の多くは、手工業ないし家内工業出身の生産者により設立され、「工場」設立後も、多種多様な玩具を受注生産していた。玩具産業が成立する以前(19世紀前半まで)の玩具生産の伝統を「工場」は引き継いでいたといえる。 ②生産拡大の過程で、玩具企業は特定の製品分野への特化傾向と銘柄品生産の性格を強めるようになる。製品の販売先である商人との取引関係は、長期的である一方、非専属的であり、企業発展の過程で取引先が50社以上に拡大した事例もみられる。 ③玩具工場は、こうした製品政策によってはじめてある程度の量産が可能となる。特定製品分野における高質品生産は、中規模玩具工場の重要な特徴といえる。しかし、特定製品分野に特化したとしても、玩具という製品の性格上、多品種生産は不可避であり、そのため玩具の装備品については、企業外の生産者から調達される。高質品生産を特徴とする企業では、特定の部品生産者との長期的な取引関係がみられた。 ④工場の生産能力拡大は、一方で多様な高質品生産の維持・発展と、他方でこれと量産との両立を図ろうとした結果であった。企業発展の過程で、労働者数の増加はみられても、資本装備率が顕著に増加することは稀であったと推測される。このことは、産業発展における工場制化の動因が機械化による生産性上昇効果だけでなく、企業が生産過程を直接管理し、技能労働集約的な生産を行う点にも存していたことを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
史料の分析に予想以上に時間を要し、また研究課題の遂行に不可欠な史料が欠如していたため、論文化の作業に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでニュルンベルクの木製玩具企業の事例検討を行ってきたが、史料上の限界もあり、検討対象をエルツ山地の木製玩具企業にも拡げ、検討をすすめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額はごく僅かであり、実質的に計画どおりに使用できている。
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