研究課題/領域番号 |
17K03843
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
森 良次 広島大学, 人間社会科学研究科(社), 教授 (10333999)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ドイツ経済史 / 労働集約型産業発展 |
研究実績の概要 |
本研究は、工場制化の度合いが低く中小経営が支配的な産業をドイツにおける労働集約型産業と捉え、その動態を世界市場とそこにおける国際競争関係のなかに位置づけ評価するものである。2022年度はドイツ最大の玩具企業、Bing社の企業集中過程(第1次大戦後)で、同社に買収された中小規模の玩具企業5社の動向を調査した。その結果、次の点が明らかとなった。 ①Bing社に買収された玩具企業はいずれも労働者20~50人未満の完成品メーカーであり、玩具市場において評価が定まったブランド企業であった。被買収企業がBing社のオリジナル製品をOEM生産することはなく、ブランド名、製品ラインナップは概ね維持された。またこれらの企業は他の小規模家内工業経営よりも生産工程を内部化する傾向がみられた。 ②Bing社に買収される以前にも、これら玩具企業は所有者の変更を経験しており、Bing社が倒産した後も被買収企業は同社の傘下を離れ、いずれのケースでも事業を継続した。 ③第1次大戦後、ドイツ玩具産業は構造的な輸出不振に苦しむが、その結果淘汰されたのは玩具部品を生産する家内労働者や廉価品を生産する家内工業経営であった。第一次大戦前までに完成品メーカーとして一定のブランド力を形成していた企業は調査した5社を含め概ね存続したと考えられる。その結果、第一次大戦以前のとりわけ家内工業経営で支配的であった多くの部品や加工を外注するという分業関係はある程度縮小し、生産の内部化が進行したと推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ドイツでの史料調査が実施できなかったため。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はドイツでの史料調査を実施し、Bing社の企業買収に関わる史料を入手・分析する。2021年度に検討したアメリカ玩具市場の動向とBing社の企業集中との関連を考察し、論文化する。 またBing社に買収された企業の動向を引き続き調査するとともに、Bing社の企業集中を戦間期ドイツ玩具産業の新展開と位置づけ、労働集約型産業のなかから労働集約型大工業が登場する事例として評価する論文をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会参加やドイツ史料調査実施に伴う旅費が発生しなかったため。 今年度はドイツでの史料調査を計画しており、旅費と史料整理のためのアルバイト代(人件費)を中心に研究費を使用する予定である。
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