研究課題/領域番号 |
17K03848
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研究機関 | 釧路公立大学 |
研究代表者 |
白川 欽哉 釧路公立大学, 経済学部, 教授 (20250409)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ザクセンとテューリンゲン / カメラ・映写機製造業 / 工業立地 / 企業集中 / 国際競争 / ツァイス・イコン社 / アグファー・ヴォルフェン社 / カール・ツァイス・イェーナ社 |
研究実績の概要 |
2021年度は、2019年度末、20年度から続く新型コロナウイルス感染拡大の影響により、予定していた「海外調査出張」による史料収集を実施することができなかった。学術振興会の御支援により、研究費の使用延長を認められていたにもかかわらず、思うように進められなかったことを申し訳なく、また残念に思っている。 新型コロナ対策が続くなか、計画を余儀なくされた事項、若干の成果はつぎの通りである。 ① 上記の通り、海外出張によるザクセンならびにザクセン・アンハルト州立公文書館とドレスデン商工会議所、カール・ツァイス社のアーカイブでの資料・史料収集の計画は、2021年度も断念せざるを得なかった。 ② ここ数年のカメラ製造企業の産業史・経営史的研究の途上で、ドイツ写真化学工業との関係に着目するようになり、21年度はザクセン=アンハルト州の化学工業地帯に生まれたフィルム製造業に関連する専門書、論文の通読、内容の比較検討を行ってきた。 ③ 2017~18年度に入手した史料や文献をもとに、内容の検討を続けている。すでに発表した1950年代のドレスデン・カメラ工業で発生した「企業集中」の背景に関する「翻訳(抄訳)」の全訳、翻訳した時期の同地のカメラ工業、そして東ドイツ経済(工業)をめぐる国際競争環境に関する分析がそれである。また、19年度から中断してきた「20世紀初頭」と「大戦間期」のカメラ工業の「企業集中」についても、第二次世界大戦後の「企業集中」との形態と内容、そして歴史的意義の「比較」に焦点をあてながら考察中である。 ④ なお、延長期間中に浮かんできた新たな課題として、カメラ・レンズ企業を事例とした生産技術、労働者の熟練、労働環境を分析し、同工業部門の歴史を多面的に捉えること、そしてそれを西ドイツの「兄弟企業(カール・ツァイス・オーバーコッヘン」と比較することを構想するようになったことを付言したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究の遅れの理由は、つぎの通りである。 1.学務負担の増加: 新型コロナ感染拡大は止まらないなか、「遠隔授業の技術支援」を目指したプロジェクトチームの業務を、前年度に続きリードすることとなった。また、FD委員長として、大学から依頼された遠隔授業に関するアンケートの作成、実施を任されたこと、それに人事、ハラスメント関連業務が加わったため、授業以外の負担が重くなった。 2.前年度から続く遠隔授業のための準備時間と講義後の対応(学生からのメールによる質問、要望への対応を含む)が格段に増えたことで、上記の学務負担と相まって研究時間を確保するのが困難となった。 3.新型コロナウイルスの世界的拡大: 新型コロナウイルス感染の影響により、ドイツでの史料収集の計画は、2021年度も断念せざるを得なかった。また、予定していたドイツの経済史研究者、東ドイツ時代の元行政官(会計監査院)との意見交換、打ち合わせの機会も、渡航制限によって実現できなかった。 4.資料収集上の困難: 研究計画がスタートした2017年度には、ドレスデンの州立公文書館での史料収集や、ライプチッヒ、ベルリンの図書館での旧東ドイツ時代の研究書や歴史関連の書籍の新たな発見などがあった。また2018年度は、学務が忙しくなったものの、多くの外国語文献を手に入れることができた。しかし、学務が一層多忙となるなか、19年度は海外出張に出掛けることができず資料収集のスピードが遅れ始めた。そして、20~21年度は、新型コロナの影響で、前年度の穴埋めをすることができなくなった。必要な文献は、「研究実績の概要」に記載したとおり、ザクセン州立公文書館史料とドレスデン商工会議所の史料や、ザクセン・アンハルト州の化学工業史に関する文献である。また、カール・ツァイス・イェーナ社の労働関係に関する資料が、新規構想課題として必要となってきている。
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今後の研究の推進方策 |
1.海外出張について: 2022年度春時点で、ドイツでは徐々にコロナ対策の規制緩和が実施されてきてはいるが、公文書館や図書館、企業アーカイブの利用には種々の制約があり、現時点では、ドイツでの第一次史料の収集は非常に困難である。入手した史料・文献を利用して、ディスカッション・ペーパーと論文等の執筆に集中したい。 (1) ディスカッション・ペーパーは、本学紀要で抄訳と解説を行ったもののを「補強」(全訳、解説の加筆)したい。1950年代はソビエト軍政が解除され、東ドイツの計画経済化が進められた時代である。他部門と同様に写真・映像機器工業においても国有化と企業集中が進められることになったが、ドレスデンのカメラ企業有力企業の間には合併後のリーダーシップに関する「対立」が存在していた。紀要では枚数制限があって部分的にしか描けなかった。今回の「補強」により、「対立」の内容のみならず、「国際競争力の低下」の背景も見えてくると考えている。 (2) 論文は、2020年度にカメラ工業に密接に関連すると考えて着手した写真化学工業(フィルム製造)の研究、そしてカメラ工業(ドレスデンのカメラ組立、イェーナからのレンズ供給という分業関係)自体の研究をさらに進めたい。19世紀末から20世紀初頭は銀板からフィルムへの転換期であり、またカメラ企業の再編・集中(合併)が進んだ時期であった。大衆の娯楽産業として広がった映画産業、写真撮影の大衆への普及は、ドイツのみならず、先行発展がみられたフランス、イギリス、アメリカにも見られた現象である。それは、カメラ製造やフィルム製造の分野での「国際競争」の始まりでもあった(のちに日本も競争に参加)。 末筆ながら、日本学術振興会のご配慮により「補助事業期間延長」を申請する機会をいただき、2020年度、21年度、そして22年度も延長をご承認いただいたことに心から感謝申し上げたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
「次年度使用額が生じた理由」: 2019年度の場合、本務校での学務負担(学部長、教務委員長、人事委員長等)の増加で研究時間を確保しずらくなり、海外出張の機会を逸したことにある。2020、21年度については、新型コロナウイルスの世界的な蔓延が、再度海外出張の実施を阻んだことにある。 「使用計画」: 日本学術振興会のご配慮により、2022年度まで「延長」して使用できることになった予算については、海外出張(当初の計画では2019年度、第1回目の延長承認ののちの2020年度そして二度目の延長承認があった21年度に使用するはずであった)に利用できる見込みがたたないため、新しく出版された研究書、日本の図書館に所蔵のない古書(外国語文献に限定)のなかから選定して購入することを検討中である。また、秋以降に国内出張が自由にできるようになった場合には、研究会等での発表のための出張資金としても活用したい。 かりに夏以降、ドイツへの渡航が可能になった場合は、文献購入と国内出張をやめて、一昨年計画して頓挫した、ドイツ経済史研究者や東ドイツ時代の元行政官(会計監査院)との情報交換を実施したい。数次にわたる期間延長を承認していただくなかで、2022年9月の渡航を企画したが、現時点の新型コロナ感染拡大の状況、ドイツの公文書館、図書館、商工会議所、企業アーカイブごとの諸制約からすると、今年度も厳しいと推測している。
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