2019年度の実施状況報告書で述べた今後の研究の推進方策にしたがい、2020年度は、チェルシー給水事業会社の経営分析を、すでに終えた1800年までの分析を踏まえて、19世紀半ばまで拡張し、長い18世紀における当社の動向をトータルに把握していくための作業を進めた。まず、19世紀前半における当社を取り巻く経営環境の大きな変化が明らかとなった。その大きな変化は主として4つあった。第1に、都市人口の増加のテンポはそれまでとは比較にならないほど早くなり、都市人口の水需要をかつてないほど増大させ、それへの対応を給水事業会社に要請したこと。第2に、水需要の増大への対応に伴い給水事業会社の新規参入が見られ、事業者間に競争的な関係が生まれたこと。第3に、都市人口の増加に伴う排水の量的増大によって、多くの給水事業会社の取水源であったテムズ川の汚染が深刻になったこと。第4に、以上のような水問題の深刻化は、国家を始めとする公的な権力に介入・調整を要請したこと。こうした経営環境の大きな変化のもとで、当社が進めた給水設備の革新(鉄製水道管の導入、揚水能力向上のための蒸気機関の拡充、緩速濾過法の導入など)とそれを可能にした資金調達のあり方といった供給サイドの動向と、給水エリアの人口増加と顧客数の趨勢と顧客の社会層などの需要サイドの動向を把握した。さらに、理事会議事録や配当記録簿の分析を通じて、具体的な事業内容や意思決定のプロセスを把握するだけでなく、理事会構成員のプロフィール(居住地、所有株式数、異動のあり方)や株主の異動に関するデータを整理することで、投資家・経営者といったステークホルダーの事業経営への関与のあり方についても解明を試みた。これらの研究の成果をまとめるために論文を執筆中である。
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