研究実績の概要 |
本研究の主な実績はYoneyama,M.[2019]である。現在イギリスにおいて、ギルドの役割をめぐってエプスタイン的立場、すなわちギルドこそ徒弟制による技術移転を促進したとする立場を批判したものである。従来イギリスでも、わが国と同様ロンドンの史実に基づくG.アンウィン説が支配的であった。17世紀中葉までギルドは独占的立場にあったがその後産業革命期に至る過程で、ギルドの特権が失われて行って、ギルド外で技術移転が進行したとする説であった。ところが20世紀末ウォーカらの地方都市の研究の進展により、ロンドンとは異なり地方都市では18世紀に入ってもギルドが隆盛していたことが明らかになった。これを基に、当時の現実政治の状況(福祉より若者に職業訓練を)もあり21世紀の初めエプスタイン説が有力になった。その際、地方都市エクセタ市などで18世紀以降も主要産業毛織物工業のギルド(Tucker's Company)で加入者が増加し続けたというウォーカらの発見事実が重要であった。 本稿では、そのエクセタ市を取り上げ、確かにギルドの加入者の増加が続いたことを確認すると共に、ギルドの営業独占(市内の毛織物生産者中のギルド加入者の割合)も同時に後退していることも示した。つまりギルド独占なしでも徒弟制による自発的技術移転(エプスタイン)があったこと論証したものである。 最終年の「近世ヨーロッパ都市」『社会経済史学事典』にもこれらの成果が盛り込まれるように努めた。日本における家族史や経済史での論争との関連については、米山秀[2019]に詳しく述べたので、ここには繰り返さない。イギリスにおける評価に関して、‘Review of periodical literature published in 2019’,Economic Hitory Review, 74, 1 [2021]p.263にレヴュウがある。
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