本研究「近現代日本における酒類消費に関する研究」の最終年度にあたる令和5年度は、以下の点を中心に研究を推進した。 まず秋田県鹿角市で続けてきた旧関善酒店史料調査については4日間のべ2名により目録の作成が続けられ、その過程では酒造経営に関する大正前期の貴重な新史料も発見された。今年度までに約120箱の整理を行ったが、詳細な目録の作成は現段階では未だ道半ばの状態である。しかし、仮目録の作成という形で、秋田鉱山地方の酒造家兼地主の貴重な史料群について、大まかな全体像をつかみうる所までは漕ぎ着けたことは大きな研究成果であるといえる。また、この史料群の安定した保管先を探すことが今後の課題として残されたと言える。 つぎに、今年度中には3度実施した兵庫県西宮市の白鹿記念酒造博物館における史料調査では、とりわけ酒米の調達や清酒の味に関係する史料の閲覧および撮影を行った。そのなかからは、大手の酒造メーカーによる酒造原料米の調達先がどのように移り変わってきたのかについてが詳細に明らかとなったことに加え、灘の酒が昭和戦前期に甘口化してゆくと言われてきた際に、使用した原料米の種類によってそれがなされたであろう可能性が高いことを明らかにするような発見ができたことが大きな研究成果であったといえる。 また、日本の酒造業発展のあり方を考える上で、醸造教育のあり方が大きな意味をもったと同時に、それには高等教育を通じて技師を育てる道と、現場の杜氏を各地で育てる道の両面が重要であったことを、「戦前期日本酒造業にみる醸造教育とその意義」として研究書にまとめ公開した。
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