本研究は、19世紀末・20世紀初頭のドイツ経済を、同時代の植民地支配を前提とした世界経済秩序との関係から再検討するものである。その際に、労働、貿易、通貨・金融政策の3つの論点に絞り、それらを具体的な事例から考察することを目指した。 労働については、19世紀後半以降、華南から東南アジア、とくにオランダ植民地に向けた中国系契約労働者輸送ドイツ商社・輸送業者が強い関心をもって参入していたことを明らかにした(2019年度政治経済学・経済史学会冬季学術大会自由論題報告)。貿易については、19世紀以降、欧米工業社会の日常生活に不可欠となった油糧種子に焦点をあて、統計資料および植民地経済委員会の報告書を分析した。この成果の一部は、第73回日本西洋史学会大会(名古屋大学、2023年5月)の自由論題で報告される。最後の通貨・金融政策については、当初予定していたドイツ連邦文書館史料のみでは不十分であることが現地調査によって明らかになったため、あらためて俯瞰的な視点から分析を進めている。 2020-21年度は新型コロナ感染症の拡大により、フォローアップ調査が難しかったものの、2022年度には、本研究課題を発展させた国際共同研究加速基金による在外研究により、フォローアップ調査を行うことができた。2023年2月19日から3月1日にかけて、バイエルン州立図書館手稿史料閲覧室にて、植民地労働論・貿易論に関するドイツ商社関連史料を調査・収集した。 また、当初の計画であった国外の研究者との研究交流も実現できた。ワークショップ「ザクセン・ポストコロニアル」(ライプツィヒ大学、2022年6月)、第19回世界経済史会議(パリ、2022年7月)および第23回国際歴史学会議ポズナン大会(2022年8月)に参加した。後者については、その大会参加報告を『歴史学研究』同大会特集(第1034号、2023年4月)へ寄稿した。
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