研究課題/領域番号 |
17K03856
|
研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
浅井 良夫 成城大学, 経済学部, 教授 (40101620)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 世界銀行 / 高度経済成長 / 経済復興 / 開発 / 開発援助 / 世銀借款 / 国際資本市場 |
研究実績の概要 |
本研究の課題は、1950年代から60年代に世界銀行(国際復興開発銀行、IBRD)が日本に対して行った融資(対日世銀借款)の歴史実証的な分析を通じて、戦後復興期から高度経済成長期における日本の経済開発の意義とその歴史的特徴を明らかにすることにある。世銀借款は、開始期(1953~57年)、最盛期(1957~61年)、再開期(1963~66年)の3つの時期に分けることができる、本年度は、主として、最盛期から再開期にかけての時期について、以下の点を検討した。 第1に、最盛期の1957~61年に実施された世銀の融資を、電力業に重点を置いて分析した。その結果、世銀資金が水力電源開発において、財政投融資と緊密に関連しつつ、重要な役割を果たしたことが明らかとなった。ただし、火力発電がコスト面で水力発電よりも優位に転じた時期に行われた世銀借款の評価については、電力企業の財務分析も踏まえて、今後さらに詰める必要がある。 第2に、世界銀行が1961年に日本に対する新規融資を打ち切ってから、わずか2年後の63年に融資を再開した経緯を解明した。世界銀行は、対外的な信用度が低く、国際資本市場から資金を調達できない加盟国に対する融資を目的とする。日本は1960年頃に、国際市場から資金を調達できる信用を得るに至ったと世界銀行は判断した。それにもかかわらず、なぜ1963年に世銀借款が再開されたのかは、これまで明らかにされて来なかった。本年度の研究では、アメリカが国際収支悪化を理由に、1964年に利子平衡税を導入したことに着目した。資本移動の自由を標榜して来たアメリカが、資本流出規制に転じたという国際金融上の変化との関連で、世銀借款の再開を検討し、利子平衡税をめぐる日米交渉と世銀借款との間に密接な関連が存在していたこと、対日借款をめぐり、世界銀行とアメリカ政府との間に対立が存在したこと等を明らかした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画申請時の実施計画では、平成30年度には、第1に、1年目に引き続き国内外の一次史料の収集・整理・分析を行う、第2に、研究サーベイの範囲を拡大するという目標を掲げた。 まず、一次史料の収集については、海外と国内で収集を行った。海外調査は、当該史料が豊富に存在するアメリカにおいて実施することとし、米国立公文書館(NARA)で前年度からの調査を継続するとともに、あらたにカリフォルニア州のニクソン大統領図書館での史料調査も行った。国内の史料は、外務省外交史料館、日本銀行アーカイブ等の機関で、史料の収集に努めた。企業等の史料は、長い時間が経過しているため、すでに廃棄された場合が多く、期待した成果は得られなかった。しかし、世銀借款に関する史料は、企業の財務データも含めて、公的な機関に多数、残されているので、必要な史料が不足し、研究に支障を来すという状況ではない。なお、国外及び国内で収集した史料の分析は、ほぼ計画通りに進めることができた。 ただし、研究実績の概要にも述べたように、本研究の範囲を国際資本市場の分析にまで拡大する必要が生じたため、史料の収集範囲を、当初の予定よりも拡大する必要に迫られた。平成30年度において、国際資本市場に関する史料の収集に努めたが、まだ十分と言える状況になく、追加の史料収集作業を次年度に持ち越すことになった。 第2の課題である研究史のサーベイについては、当初予定していた開発経済学関連の研究サーベイを実施するとともに、あわせて国際資本市場の歴史的研究に関する文献の収集と検討を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度、30年度ともに、ほぼ予定していた実施計画に沿って研究を進めることができたので、令和元年度についても、基本的に当初の実施計画に沿って研究を行う予定である。ただし、調査が不十分な部分、その後の研究の過程で追加調査が必要になった部分が存在するので、3年目も引き続き史料調査に力を入れる予定である。 最終年度である本年度については、以下の作業を予定している。 第1に、世銀借款の実施過程を分析するために、日本産業史(鉄鋼・電力等)の研究と照らし合わせつつ、これまで収集した史料を整理し、読み込む作業を実施する。これまで2年間の研究では、まだ企業レベルでの検討が不十分なので、経営の側面に踏み込んだ研究が必要であると認識している。また、対日世銀借款のうち、これまでの2年間で本格的に検討を行っていない鉄道および道路に関しては、令和元年度に検討を行う予定である。 第2に、研究を進める過程で、新たにその重要性が判明した1960年代の国際資本市場に関しては、さらに新たな史料を発掘し、検討を進めたいと考えている。なお、この課題については、研究を深めるために、欧米金融市場史の専門家と組んで学会発表を行うことを予定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
史料調査について、調査先の都合等により、平成30年度において、当初の予定通り実施できなかった箇所がある。次年度使用額が生じた主たる理由は、予定していた調査のうち実施に至らなかったものがあったことである。 そこで、平成30年度に実施できなかった調査は、次年度に調査を実施することとした。使用額は、史料調査(海外調査および国内調査)と関連の史料・文献の購入に充てる予定である。
|