研究課題/領域番号 |
17K03860
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
加瀬 和俊 帝京大学, 経済学部, 教授 (20092588)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 失業 / 国勢調査 / 労働力調査 / 国民登録 / 職業安定所 / 労働市場 / 復興期 |
研究実績の概要 |
2017~2018年度においては以下の作業を行い、以下のような論点を確認することができた。 第一に、復興期の人口移動、就業・失業状況についての各種統計の立案過程の特徴を把握するとともに、統計結果の収集・分析を継続的に実施した。敗戦直後期の人口・就業・失業の統計類の数値については、物資不足の下での用紙の不足、災害・準備不調による調査非実施地区の多さ、調査直前における調査票の修正による混乱といった事情もあって、統計数値の信憑性は低いとみなされ、丁寧な分析がなされてこなかった。この点をふまえて信頼できる統計部分を確定し、それに依拠して当時の人口・就業の推移を時系列的に確定することがほぼ可能になった。特に従来は内閣統計局が実施した就業統計類がほとんどもっぱら取り上げられていたが、厚生省による国民登録、商工省による事業所統計などとの統計相互間の連絡をつける作業も行い、統計的な信頼性を高めることが可能になった。 第二に、復興期において占領軍司令部(GHQーESS)が日本の就業統計作りにも強く関与したが、その内容はアメリカの国勢調査・労働力調査の方式を機械的に日本に適用しようとするものであり、それが日本の労働市場に適合的な従来の日本の就業・失業統計との間に不整合をもたらして、失業者数を過少に把握されるにいたったという関係を明らかにした。この点を含め、復興期の労働市場の実態に必ずしも見合わない調査項目を採用せざるをえなかったことによって、人々の感じた失業者の多さと、統計上の失業率の低さとのずれが大きくなったという結論を得た。 第三に、失業者を吸収して不完全ではあれ就労機会をあてがった自営業部門の役割は大きかったが、それがもたらした成果は地域・産業・職業によって著しく異なっており、それがその後の自営業部門から雇用部門への労働力の流出の大きさの差異をもたらしたことをほぼ確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各地の文書館等に所蔵されている就業・失業関係の行政文書類の閲覧・複写、諸統計類の整理はほぼ予定にそって順調に進展しており、その一部を論文として発表することができた。 やや期待外れになってしまったことは、各種調査の結果の数値は把握できても、それらの就業・失業関係の統計類の作成過程の事情については、国レベルの資料は調査の実務的仕組みに関わる資料にほぼ限定されている点で不十分であるし、県レベル・市町村レベルの資料については資料が多く残されている少数の県の実情に依拠して実情を理解せざるをえなかったため、一定のバイアスが存在している可能性を否定できない。この点については、2019年度での引き続く資料調査に期待しているところである。 戦後に初めて制度化された失業保険は復興期においては未だ十分に機能しておらず、失業者の生活に大きな効果は与えていないことが統計にもとづいて容易に理解できたが、失業者に就労機会を与える失業救済事業については、交替就労方式や劣等処遇原則など、戦前期の失業救済事業では厳格に適用されていた諸原則が、戦後においては緩和ないし廃止されていることが判明したが、その根拠については、未だ資料的に解明できず、論理的な推定のレベルにとどまっている。 このようにこの2年度間の作業で得られた成果は少なくはないが、設定した課題に対応した論点が十分明らかになったとは言い難いので、2019年度においてそれらの諸点を補うべく努力する所存である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は3か年度の研究期間の最終年度に当たるので、資料調査を引き続き進めるとともに、当時の諸文献等に依拠して、人口・就労事情に影響した関連事項・背景事情を明確にして、研究を総括する著作を完成させるつもりである。その際、統計分析については、すでに検討を終えた全国統計・全数統計類だけではなく、個別事例の分析や、統計局以外の各省庁、地方官庁等でなされた地域限定的な統計類にも注意を払うつもりである。また職業安定行政、失業対策事業関係者等の回想録、経験交流会合の記録等にも資料捜索範囲を広げて、当時の行政が実施された時代状況を浮き彫りにできるようにしたいと願っている。他方、調査を通じて得た統計類・文書資料類の紹介・公表については、予定している著作の中で各資料の位置づけを明確にするとともに、広く公開することが許されることを確認できた文書等については、ホームページ等において公表したい。特に、従来取り上げられることのなかった資料の解題を丁寧に記すとともに、各種統計・文書資料において明確な定義抜きに用いられることの多かった就業者・休業者・失業者・「本業なき副業者」などの不明確な概念について明確な定義を与えることによって、諸統計の信憑性を高めることにも努力したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
就労状況に関わる人口・就業者数・失業者数・職業安定所利用者数・失業保険受給者数等の数値は比較的容易に大量に入手可能であると想定しており、その県別・市町村別等の時系列統計を作成するために資料整理を担当してくれるアルバイターを依頼するとともに、その作業のためのコンピューター一式を購入する予定であった。しかしながら、県によって集計項目が異なるなど、必ずしも機械的に入力できるように統計表が作成されていないものが多かったため、研究代表者が集計項目を作成しつつ入力も行うこととした。このため物品費・人件費に残額が発生した。その余裕分を、資料をより幅広く探索するために旅費に使用することとした結果、近隣地区だけでなく、関西方面の多数の文書館に文献閲覧の範囲を広げることができた。次年度においては、集計統計類を他の研究者も使用可能なレベルにまで整備する予定であるので、今年度に使用しなかった人件費・謝金、物品費が必要になる。
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