2023年度は最終年度であり、科研の研究課題の成果をまとめる作業に尽力した。 主に二つの成果をまとめた。 ①坂根嘉弘『アジアのなかの日本:日本の農業集落と経済発展』清文堂出版、2024年1月刊行、単著、1頁から337頁。本書では、アジア諸地域との比較を念頭に、農民組織、産業組合、不正肥料の3つのテーマを扱っている。日本の「村」は固定的な「家」で構成され、高い自治機能を持つ。第1部農民組織では、日本の「家」制度・「村」社会を基盤にした農民組織として、徴税組織と農会組織を取り上げた。「村」による相互規制・相互監視により、ともに有効に機能したことを示している。第2部では、沖縄・樺太・南洋群島及び台湾の産業組合(とりわけ信用組合)を取り上げた。産業組合の展開には、対人信用、貯蓄動員、デフォルトの抑制、機会主義的行動の抑制が有効に機能した。そのような「村」機能が期待できない地域での産業組合の検討を行った。第3部は、不正肥料の排除に焦点を当てている。肥料は情報の非対称性が大きい投入財であった。不正肥料の克服を途上期日本を対象に検討した。 ②英語論文「Japanese Mura and Economic Development」の作成。英語で発信するため、研究成果を英文に要約・翻訳した。未発表であるが、近く公表する予定である。日本の「村」社会が、近代日本の経済発展をサポートした側面があることを論じている。 理論的には、情報の経済学、契約理論などとの接点を持っている。
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