研究実績の概要 |
本年度は、イギリスを基軸とする多角的貿易システムの形成過程、及びその構造と特質を明確にした論文「貿易が生み出す格差-第一次大戦前のイギリスを基軸とする多角的貿易システム」(佐藤康仁・熊沢由美編著『親版 格差社会論』同文舘出版、2019年、第7章所収)を発表した。この論文において、イギリスを基軸とする多角的貿易システムの構造と特質を明らかにすることができ、同システムの解体過程を考察するための基礎的知見を得ることができた。具体的には、イギリスを基軸とする多角的貿易システムとは、同国の投資利害を迂回的に回収するためのグローバルなシステムであり、植民地インドや自治領オーストラリア、さらには「非公式帝国」アルゼンチンからの金融・経済的搾取を特徴とするシステムであったことを確認した。なお、同書は大学講義用の教科書、及び一般向けの概説書としての性格も有しているため、本研究の内容を広く周知することが可能となったと考える。 一方で、多角的貿易システムに関する古典的研究である洋書の翻訳原稿を完成させた。具体的には、国際連盟経済情報局『世界貿易のネットワーク』(原著:Eづconomic Intelligence Service,The Network of World Trade, League of Nations, Geneva, 1942)である。同書は1948年に大蔵省による訳本が出版されているが、誤訳が散見される上でに表現も古く非常に読みづらい。したがって、改めて翻訳しなおす作業を行った。原稿はすでに出版社に提出済である。校正作業をすみやかに行い2019年度中には出版したいと考えている。上述の『親版 格差社会論』同様、本書も大学講義用の教科書、及び一般向けの教養書としての性格も有しているので、多角的貿易システムやグローバル経済に関する知識を普及させることに資するものと考えている。
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