組織的な「失敗からの学び」を得意とする組織は多くはない。個人の失敗であれば、失敗を犯した当事者が反省し、注意することにより多くの同じ失敗を防止することが可能であるが、組織的な失敗の場合は、失敗を犯した当事者が反省しても、組織内の他の構成員が同じ失敗を犯してしまうことがある。これを防ぐためには、失敗の原因を作った当事者がその要因を追究し、他の組織構成員に伝達する必要がある。しかし、これには精神的負担等が大きく、実現が困難であることが多い。本研究では、組織的な「失敗からの学び」を多く実施してきている組織を題材に、失敗談を共有する対象は『組織』か『個人』なのかという観点から研究を行った。この結果、失敗談や失敗防止策に関して個人的にアドバイスを得た経験がある人は、失敗談や失敗防止策に仲間に対して個人的にアドバイスを行う傾向があるということを明らかにした。 また、組織的な「失敗からの学び」が知の深化と探索からなる「両利きの経営」の実現に対する有効性も検証した。この結果、組織的な「失敗からの学び」は知の深化に対する有効性が高い一方で、知の探索に対しては有効性が低いことも明らかにした。 さらに、最終年は、コンピュータベースのナレッジレポジトリと組織記憶の関係性についても探索的研究を実施した。その結果、(1)コンピュータ・レポジトリは、組織記憶を直接強化するのではなく、(2)脳の記憶のようなソフト・メモリと文書のようなハード・メモリの両方を増強することを介して、(3)ソフト・メモリとハード・メモリは組織記憶を強化する、ということが分かった。 加えて、失敗学習によって得られた知見や技能の伝承の観点から、視線計測を用いた暗黙知の可視化手法や組織文化の可視化手法の開発も実施した。 これらの研究成果は、失敗からの組織的な学びを実行する組織・企業にその再発を促すものである。
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