研究課題/領域番号 |
17K03873
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
弘中 史子 滋賀大学, 経済学部, 教授 (10293812)
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研究分担者 |
寺澤 朝子 中部大学, 経営情報学部, 教授 (40273247)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 中小企業 / 国際競争力 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,グローバル化する中小企業の国際競争力向上を,複数国進出と内なる国際化という2つの点から探ることである。特に海外に生産拠点を持つ企業を対象として研究している。 本年度は,引き続き既存研究の収集・レビューを実施したほか,複数国に進出している中小企業の調査を,国内・海外にて実施した。その結果,以下のようなことが明らかになった。 第一に,複数国の進出に成功している中小企業は,最初の進出は主たる顧客の要請により海外生産を開始している場合が多いが,2カ国目からは新たに顧客を開拓することを前提に進出していることが多かった。また,各拠点で顧客開拓をするにつれて,手がける業界や製品・工程に広がりがうまれていた。 第二に,複数国に進出するにつれて,拠点設立のノウハウは蓄積していくものの,人材マネジメントに関しては苦心している事例が多いこともわかった。中小企業は現地に派遣できる社員の数も限られていることから,駐在員の果たす役割は大きい。そこで昨年度に引き続き,既存データをもとに,日本人駐在員と現地社員の認識ギャップについての分析を深めた。また,現地社員から望ましいパフォーマンスを導き出すこと,現地社員の学習行動を促すこと,職務満足を向上させることとの関連についても,因果関係を明らかにした。 第三に,複数国に製造拠点を展開するプロセスは,経営者や現地管理者の意思決定によるところも大きい。海外で現地従業員を採用,教育し,円滑な工場経営を実現するためには,経営者らの海外における外的内的環境の認知およびそれに基づく取り組みが欠かせない。彼らの経営視覚の変化に関しても理論的な研究を進めている。 これらの研究の成果の一部は,国内や海外の学会で報告するとともに,論文にまとめることができた。また研究成果を社会に還元することを意識し,研究成果の一部をわかりやすくまとめた報告書も作成し配布した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は,当初計画したように,日本企業の進出について長い歴史を持つタイにて現地調査を実施することができた。さらに国内での調査も実施することができた。 また複数国進出,とりわけ生産拠点を持つ場合には製造現場での雇用が多くなることから,人材マネジメントが肝要だと思われるが,この点についても予定通り,既存データを用いて分析を進展させることができた。 またこうした研究成果の一部を論文にまとめたほか,2回の国際学会と1回の国内学会で報告することができた。さらに研究成果を社会に還元することも意識し,マレーシアで回収した日本人管理者とマレーシア人を中心とした現地従業員対象のアンケートに関する分析を冊子として作成し,調査協力に応じてくれた企業を中心に配布した。現地従業員と日本人管理者との間の認識ギャップが明らかにするとと同時に,現地従業員と日本人管理者とのコミュニケーションのあり方に課題があることや,複数国進出に際する示唆もまじえて企業にフィードバックすることができた。 以上により,「(2)おおむね順調に進展している」と判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も引き続き,関連する研究のレビューやフレームワークに基づく事例分析など,理論面での考察を行う予定である。また,実証面でも国内・海外での調査を実施する予定である。 まず,国内については,複数国に海外生産拠点を進出している企業を中心に日本本社への訪問調査を行う。その際,複数国展開に至った経営者の意思決定なども含め,展開によって生じた全社での変化を販売面・技術面・組織面・人材育成面を中心に情報収集し,内なる国際化に関する考察も深めていきたい。 海外については,日本企業の進出の歴史が長く複数国に展開している企業が多いタイを中心に調査し,他のASEAN・東アジア諸国も視野にいれる予定である。特にタイについては,取引先の開拓など販売面において,マレーシアとはかなり異なった特徴を持っている。他方,組織面・人材育成面においては,似たような特徴も見られる。国ごとの異同や複数国展開による功罪についても,現地で情報収集を行う予定である。 さらに,比較分析のために,1カ国のみ進出している企業も分析したい。複数国展開を視野に入れていないならば,その理由を考察する必要もあろう。 これらから得た研究成果については,積極的に論文や学会発表という形で公表していくことを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 本年度は,研究成果を報告した2回の国際学会がいずれも東京,台湾というアクセスのしやすい圏内で開催されたことから旅費等が当初に想定したよりも低価格となった。また国内での調査においても,我々の問題意識に該当する中小企業が近距離にあったことから,こちらも旅費等での費消が少なくなった。また書籍等の物品費も節約することができた。 (使用計画) 本年度は,海外での現地調査や学会報告での旅費,データ分析等に関わるその他の経費への支出として主に費消する予定である。
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