研究実績の概要 |
本研究の目的は,中小企業の国際競争力向上のための施策を,複数国進出と内なる国際化という2つの点から探ることである。本年度は,新型コロナウィルス感染拡大危機のため,海外での調査や,現地に進出している中小企業からの直接的なフィードバック調査は実現できなかったが,以下の点について研究成果を出すことができた。 「複数国進出」については,日本人駐在管理者が現地従業員とのコミュニケーションスキルを習得し,その前提となる異文化スキーマを理解することで,二カ国目以降の進出への意欲が高まるという点に着目した。国によって事情は異なるとはいえ,日本人駐在管理者と現地従業員のコミュニケーションのあり方は,パフォーマンスに多大な影響を与えている。具体的には過去に実施した日本人駐在管理者と現地従業員へのアンケート調査および中小企業の海外拠点におけるインタビュー調査を用いて,効果的なコミュニケーションを実現している企業とそうでない企業と比較して,どのような優位性を持っているのかを明らかにした。研究成果の一部は,関連学会の統一論題で報告した。 「内なる国際化」については,いかにして日本国内において従業員の国際意識を向上させられるかという観点から考察した。具体的には,海外からの工場見学客を多く受け入れている中小企業に勤務する日本人従業員に対してアンケート調査を実施し,どのように従業員の意識が変化しているかを調査・分析した。異文化センシティビティ発達による成長段階モデル(Bennett, 1986)に依拠し,海外からの見学客を受け入れる従業員の経験が,いかに自文化中心段階から文化相対的段階へと成長するのか,そのプロセスの解明を試みた。結果として,海外からの工場見学を受け入れることで,モデルにおける差異の最小化の段階,差異の受容段階の方向へと同社の従業員の意識が変化していることを確認した。
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