研究課題/領域番号 |
17K03884
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
長瀬 勝彦 首都大学東京, 社会科学研究科, 教授 (70237519)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 計画錯誤 / 先延ばし / 意思決定 / 個人と集団 |
研究実績の概要 |
計画錯誤の原因のひとつとして「先延ばし(procrastination)」がある。先延ばしは「それによって事態が悪化することを予期しながら課題への取り組みを意図的に繰り延べること」と定義される。先延ばしの先行要因の研究は数多いが,Steel(2007, 2011)は先延ばし研究の包括的なレビューとメタ分析をおこない,それを踏まえて,期待理論のモデルを拡張する形で先延ばしを加味したモチベーションのモデルを提示した。そこでは「期待」と「価値」の積を「衝動性」と「待ち時間」の積で除したものがモチベーションとして示される。また先延ばしの結果についての先行研究では,先延ばしの度合いが高いと成果が低いことを見出した研究もあるが,異なる結果を見出した研究もあり,一貫していない。その原因のひとつは,ほとんどの先行研究が「先延ばしの先行要因と先延ばし」もしくは「先延ばしとその結果」の二者間関係の分析に留まっていることである可能性がある。そこでわれわれは「先行要因と先延ばしと結果」の三者関係を直接に分析することを企図した。先行要因としてはSteel(2011)で示された期待と価値と衝動性の尺度を日本語に翻訳し,先送りの尺度もSteel(2011)から翻訳した。結果の尺度としては大学のGPAを用いることとした。35名の大学生を対象に質問紙調査をしたデータについて共分散構造分析をおこなったが,データ数が少なかったために適合度が低く,十分に意味のある結果とはならなかった。なお,先送りに関する先行研究のレビューは順調に進んでいる。 個人と集団との計画錯誤に関係して「カードの塔」実験をおこなった。個人または二人組にカードで指定の塔を作るのに要する時間を見積もらせ,実際に塔を作らせて,見積もった時間との乖離について個人と二人組に差が出るかどうかをみることが目的であったが,有益な結果を得るに至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に終了予定であった研究が遅れて今年度まで延長となり,そちらに多くの時間が取られたのがこの研究の遅延の最大の原因である。短い時間の中で,「先送りの先行要因」と「先送り」と「先送りの結果」の三者間の関係についての調査と「カードの塔」実験をおこなったが,いずれも企図した結果が得られなかった。 先送りについては,共分散構造分析をおこなったが,適合度が低く,学術的な貢献として主張するには及ばなかった。35名のデータしか集められなかったことが最大の原因と考えられる。結果の尺度として大学生のGPAを用いることは先行研究でも広くおこなわれているが,最初にデータを取った後に,一部の学生がうろ覚えのGPAを回答していたことが分かり,データの取り直しを余儀なくされた。対面でのデータのとりなおしは困難であったため,ウェブでのデータ収集に切り替えてウェブ版を急遽作成したことにも時間が取られてしまった。 カードの塔実験は,その手続きについて直接に参考となる先行研究がなく,ゼロから実験計画を立てたために時間を要した。大学生を参加者にした実験と社会人大学院生を参加者にした実験をおこなったが,特に社会人の方で制限時間内に終わらないケースが多く発生した。使用した机が違ったことが原因であったかもしれないし,若者よりも年配者の方がこの種の作業を苦手としているのかもしれない。まわりの参加者が徐々に作業を終えていくことがわかるので,それが心理的に影響を及ぼす度合いが異なるのかもしれない。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,計画錯誤に関する先行研究のレビューと,それに基づいたリサーチクエスチョンの設定,その検証のための実験や調査を精力的に展開していきたい。本研究の今年度の遅延をもたらした最大の原因は別の研究の遅延であったが,そちらは今年度で終了したので,来年度以降は十分な時間が確保できると見込まれる。 今年度におこなった研究は2つとも期待した結果が得られなかったが,改善を施して再度おこなうことを計画している。今年度に実施した調査から,先送りの先行要因や先送りの程度についての質問紙に若干の変更を施した方がいいと考えられる箇所がみつかったので,そこも再検討したい。先送りの研究については,データを多く集めることが最重要課題となるが,その目途はついている。先送りの先行研究のレビューは順調に進んでいるが今後も継続したい。 「カードの塔」実験は,本研究の中心的な問題意識である個人と集団との比較に関わるので,更なる改善を施してあらためて実施したい。最大のポイントは,ほとんどの実験参加者が時間内に終了できる課題にすることである。ただし,容易に見積もることが可能な課題であってはならないことには注意が必要である。カードの塔ではなく別の課題になる可能性もある。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定よりも研究の進行が遅かったために次年度使用額が生じた。今後は先行研究のレビューとリサーチクエスチョンの設定,その検証のための実験等の実証分析により精力的に取り組む所存である。
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