研究課題/領域番号 |
17K03884
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
長瀬 勝彦 首都大学東京, 経営学研究科, 教授 (70237519)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 計画錯誤 / 目標設定理論 / 意思決定 / 集団思考 / 集団極化 |
研究実績の概要 |
小集団で計画を立てるときは何らかの議論がおこなわれるのが普通である。「三人寄れば文殊の知恵」と言われるが,集団思考(groupthink)や集団極化(group polarization)現象に見られるように,集団による議論は必ずしも賢明な意思決定に繋がらないことを多くの研究が見出している。また計画錯誤(planning fallacy)の研究は人間がタスクの遂行に要する時間を短く見積もる傾向があるなど計画の策定においてバイアスがあることを見出している。われわれは,学生が定期試験の勉強時間を計画するに当たって他の学生と議論することが計画勉強時間や試験の点数などにどのような影響を及ぼすかなどを心理実験の手法によって探求した。その結果いくつかの発見があった。第一に,最初に個人で勉強時間を計画してから他の学生と勉強時間について議論し,あらためて自分の勉強時間を計画すると,最初に立てた計画よりも勉強時間が有意に長くなる。ただし試験の点数には影響がない。第二に,計画を立てた者と立てなかった者とでは計画勉強時間,実勉強時間,予想点数,実際の点数において明確な差が生じない。第三に,試験の成績について具体的な目標を与えられた者と抽象的な目標を与えられた者との間に議論前の計画勉強時間,議論後の計画勉強時間および試験の点数の差はみられない。モチベーションの目標設定理論(goal setting theory)によれば,抽象的な目標よりも具体的な目標の方が高い成果をもたらすはずである。本研究の結果はその予測とは整合的ではないため,その原因について探求することが新たな発見をもたらす可能性がある。第四に,計画について議論する相手が友人や知人の場合と初対面の場合とでは,前者の方が計画勉強時間が長く点数も高い傾向がみられたが,実験手続の問題があり,今後の更なる検証が必要とされる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究については幾分かの進展があった。しかしながら,これまでの遅れを取り戻すには至らなかったため,総合的には「やや遅れている」という自己評価になった。遅れを取り戻すためには本研究のエフォート比率を引き上げるか,研究効率を大幅に引き上げる必要がある。しかし前者については,教育,学務等の負荷も大きいために実行できなかった。後者については努力したものの必要な水準には及ばなかった。分析に使用する質問紙データには回答者の氏名等が含まれているものがあり,補助者を雇用して作業させることができず,研究代表者がひとつひとつ読み取って打ち込む必要があることも効率向上の難しさの原因となっている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,期末試験の前に他の学生と計画について議論した「議論計画者」と,議論をおこなわずに期末試験において試験勉強計画を想起した「想起計画者」とで比較をおこなったが,両者は実験者が事前にランダムに振り分けたのではなく,試験の前の授業に出席した学生が議論計画者となり,欠席した学生が結果的に想起計画者となった。試験の前の授業に出席する学生は欠席する学生よりも真面目である可能性があるため,条件統制が適切におこなわれたとはみなしがたい。また議論する相手が知人・友人の条件と初対面の相手である条件との比較もおこなったが,これも実験者がランダムに振り分けたのではなく,その場で学生が自由に相手を見つけた。知人・友人が教室内ですぐに見つかる学生とそうでない学生とでは違いがある可能性があるため,これも条件統制において適切性を欠いている。今後はより適切な条件統制をほどこした実験をおこなうようにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
大勢の参加者を要する心理実験は研究代表者の授業の出席者を参加者としておこない,謝金が発生する実験は他の研究費でまかなったために謝金が発生しなかった。今後は,参加者が長時間の作業をする実験など,参加者や補助者に謝金を支払う実験も本研究費で積極的におこないたい。
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