本研究は、コーポレート・ファイナンス理論を拠り所とし、企業の人的資本投資における競争優位性を実証的に明らかにすることを目的としています。研究の目的は、イノベーションを目指す研究開発型企業において、人的資本投資に対する柔軟な意思決定がイノベーションを実現する上で価値を創出し、結果として企業価値拡大の予見性を高める、という仮説を多角的に検証することです。エージェンシー理論や情報の非対称性理論を論拠とした従来型の企業行動に対して批判的な立場を採ることによって、人的資本が競争優位となる現代企業の投資意思決定の現実を説明するところに本研究の特徴があります。 これまでコーポレート・ファイナンス理論が対象としてきたのは、経済主体間の利害調整の末に実現される「資源配分の効率性」という経済現象の理解にありました。本研究が目指す最も大きな貢献は、「配分の対象となった資源」自体が事後に創造する価値に及んだ分析を行うことにあります。そのために企業の投資意思決定を縦糸に、人的資本投資の自由度、ガバナンス、イノベーションという三本の横糸を織り込むことによって具体的なフレームワークを構成しました。その結果、株主と経営者による交渉の末に意思決定される財務的企業行動を適切に行うための科学的根拠を提供することができました。 このことはコーポレート・ファイナンスの理論体系に貢献する新たな知見を提供し、学問的意義ばかりではなく実務的意義も大きいと考えています。
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