第1に,「製品リコールを通じた組織学習ー組織外-自発的学習の有効性に関する一考察ー」に関する学会発表を行い,研究成果を公表するとともに,活発なディスカッションを通じて研究題目の深掘りと新たな知見の獲得を行った。 第2に,これまでの研究で明らかになった「品質(製品品質および製品リコール・製品事故)と生産性のジレンマ」について以下の点から考究した。(1)主な品質管理諸学説(シューハート,デミング,ジュラン,ファイゲンバウム)では多義的な品質概念のうち,どの概念および次元に着目した理論を展開しているか,基礎的な概念およびフレームワークを明らかにした。その際,品質管理の提唱者は生産性向上に対して,どのような解決策や指針を提示していたか,理論や学説が生起した社会的・文化的背景を踏まえて考察した。(2)品質管理諸学説の共通点と相違点を踏まえて,品質管理のエッセンシャルズ(有効性と限界)を抽出し,現代の経営課題の本質を捉え,解決策を講じる手がかりとした。また,品質管理論と企業経営に関する諸理論との比較研究を行い,相対的に理論の普遍性と特殊性についても考究した。(3)現代の経営課題として製品リコールの増加・高止まり傾向の問題を取り上げ,品質管理の基本的視座から課題解決に対するインプリケーションについて考究した。特に,品質管理諸学説で共通して強調されている,「顧客志向」および「製造工程管理」は現代の製品リコール問題に対しても有効な指摘であるだけでなく,製品設計の質やそれをトップマネジメントの観点から戦略的に判断すること(リーダーシップ)の重要性を指摘したジュランの指摘もまた普遍的な意義を有していることを明らかにした。 なお,第2の成果については,これまでの研究成果の総括としても位置づけられ,テーマとしても経営学研究における普遍的意義を有していると考えている。
|